第22話 機械仕掛けと天使の翼
そんなこんなで来てしまった決勝の時。天使とロボの対決である。
「マキー!ファイトー!」
「頑張ってくださーい!」
決勝コート付近には、
「俺のかたきを取ってくれー!」
「やっちまえー!!」
対して
「やはり勝ち上がって来たわね」
「とーぜん。お前に勝って優勝はもらうぜ」
ネットを挟んで向かい合う真季那と翔は、お互い自身に満ちた言葉を交わす。
「それでは決勝戦、初めてください!」
時は満ちた。
一年生同士の決勝戦という、記録上にも珍しい最大の一戦が、今始まった。
「悪いが、初っ端から飛ばしていくぜ!」
神々しいオーラをまとったシャトルが、翔の凄まじいサーブによって天高く打ち上がる。
そして相手コート上空に来ると、強力な重力に引っ張られるように直下した。
「やっぱりそう来たわね」
並のドローン程度なら一撃で撃墜してしまえる直下サーブ攻撃だが、真季那は既に対策済みだ。
こんな事があろうかと、
「ふっ!!」
真季那は落下位置をミリ単位で正確に計算して真下に潜り込み、力いっぱい打ち返した。
「これを返すか。さすがだな!」
だが翔も負けてはいない。真季那のショットに引けを取らない速度で返されたシャトルは、まるで弾丸の如きスピード。
しかし機械の反応速度は人間をはるかに超える。音速にも近い速度で放たれたシャトルすらも正確に打ち返してしまう。
「は、速くて見えんよ……」
人美が漏らした言葉の通り、2人のラリーの応酬は目で捉えるのも難しいレベルだった。
だが不意に、両者の動きは止まった。
「へっ……なかなかやるな……」
真季那のショットが決まったのだ。先ほどのラッシュが噓のように静まり返ったコート内で、翔の呟きが聞こえた。
「あまりなめてもらっては困るわね。あなたが今まで試合をして来た人達と違って、私は人間じゃないのよ?」
挑発的な言葉を投げかけ、真季那はサーブを上げた。
「いいぜ!出し惜しみしてる場合じゃなさそうだなッ!」
翔は先程よりも強く、そして速く打ち出す。速度だけで言えば空気摩擦でシャトルが焼き切れるギリギリなくらいだった。
だが。
「そこよ!」
「何っ!?」
真季那の予測はすでに追いついており、これも難なく打ち返した。これで2点先取だ。
「俺は明らかに速度を上げたはずだが。なぜ見切れた?」
翔は訝し気に問うが、真季那は当然のように衝撃の事実を告げた。
「なぜって、計算しただけよ」
「何だと……?」
「先ほども言ったでしょう?私は人間じゃないのよ」
第一球目のラリーの応酬で、翔の攻撃パターンや打ち返す速度は完璧とまではいかずとも八割方は解析出来た。あとはそこから速度を上げた場合のルートやスピードを演算してしまえば、打ち出す前に予測が可能だ。
「自分の親を自慢するようで恥ずかしいけれど、私を造り出した博士は天才よ。私のスペックは、世界が掲げるスーパーコンピューターなんて軽く凌駕していると思いなさい」
「いぇーい!マキかっこいいー!!」
「茶化さない」
外野で歓声を上げる人美をじろりとねめつける真季那。その空気感はいつも通りのそれであり、真季那にまだまだ余裕があることを表していた。
「なるほどな……確かに甘く見ていた事には謝るぜ。ロボットと言っても大した事ねぇと油断していた事も認める」
翔はそう言うと、一度大きく深呼吸をした。そして再び顔を上げる。その顔には、笑みが浮かんでいた。
真季那の実力への称賛と期待、そして自身への覚悟。試合に対する興奮や愉悦など、様々な色のこもっている笑みは、今までで一番力強かった。
「なら俺も、全力でいかせてもらうぜッ!!」
そう宣言した直後、膨大な力が翔の背中から溢れ、渦巻き、集束した。
それは神に創られし天使の象徴。圧倒的なチカラによって生まれた『翼』だった。
「数式じゃ決まらねぇ世界の法則を見せてやる!」
体中から威圧的ながらも神々しいオーラを放つ天使はそう宣言し、ラケットを握る。
対する機械は、流れないはずの冷や汗を錯覚しながらも、笑みを返す。
「いいわ。全て解読してあげる」
チカラを込めた天使の瞳が、演算を加速させた機械の瞳が、強く輝いたその時。
再開された戦いは激化していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます