第13話 試験勉強と天気の娘

 雨が降りしきるとある休日。

 今日は才輝乃さきのの部屋に集まって期末試験に向けての勉強会を開いていた。


「多項式……次数……係数……?訳わかんない!!」

「集中しなさい」


 数学の教科書とにらめっこしながら大声を上げる人美ひとみを、真季那まきなはぴしゃりとたしなめる。その横では一愛いのりが苦笑していた。


「確かに、今回の数学の範囲は用語多いですよね」

「ほんとだよー。こんな面倒な用語考えたの誰よ。何でこんな事したの」


 ふてくされたように人美がボヤくと、向かいで才輝乃に国語を教えてもらっているそらが答えた。


「そりゃあ、面倒くさかったんじゃね?」


 空は眠そうな半眼のまま、教科書を見やる。


「こと細かく用語を用意しないと、説明に手間取るとかそんな理由だと思うぞ」

「むむ、つまり面倒臭がりなのは昔の人間も変わらないって事か」

「そういう事。きっと人類は昔から面倒くさがり。なので俺たちがテスト勉強を面倒くさがっても何も悪くないと言う事だ」

「悪いわよ。勉強しなさい」


 空と人美は共に人類面倒臭がり論を展開していたが、勉強しろと真季那からお叱りを受けた。


「はぁー勉強めんどくさいなー」

「ほら、空君のせいで人美ちゃんがやる気無くしたじゃん」

「え、俺のせい?」


 空は心外だと才輝乃に目を向けるが、才輝乃の目は空が悪いと告げていた。


 そんな話をしながらも、5人は少しずつ試験勉強を続けていく。

 だが、宿題と違って試験勉強に明確な終わりが無い。終わりのないのが終わりである。なのでキリのいい所で休憩を入れる事にした。


 才輝乃が出してくれたクッキーを食べながら、人美が外の様子をうかがう。朝から降る雨は、未だ止む気配が無い。


「いつまで振るんだろ。髪じめじめするから早く止まないかなぁ」


 人美は髪を手櫛でぐしぐししながらそう言うと、ふと才輝乃の顔を見た。


「サキの超能力で雨雲吹き飛ばせない?」

「たぶん出来るよ」

「できるんだ」


 超能力すごいな……と人美が驚いていると、才輝乃はしかし手をぱたぱたと振った。


「でもやらないよ?私個人の思想だけで自然を乱しちゃいけないから」

「真面目だなぁー」


 私利私欲のために超能力を使う事はしない真面目な才輝乃。生まれつきだというその力は、もしかすると神様はこういう子に育つと分かっていたから授けたのだろうか。



「じゃあてるてる坊主でも作りますか」

「そう言うと思って、もう制作済みだ」

「おお!ナイスソラっち!」


 自信満々にてるてる坊主をかかげる空に人美は感心したような声を上げる。が、それはすぐに困惑の色へと変わった。


「ソレ……何?」


 空の作ったてるてる坊主は、謎の文字がそこら中にびっしりと刻まれており、見るからに禍々しかった。


「これは呪いのお札で作ったてるてる坊主、略して『のろてる坊主』だ。今すぐ晴れにしないと呪ってやる、と天に訴える事ができる素晴らしい一品だ」

「お天道様を脅すとか変に度胸ありすぎでしょ……。却下」

「くそう」


 天に喧嘩を売るなんて勇気を通り越してそれは蛮勇である。人間のしていい事ではない。よいこはぜったいにまねしてはいけない。


「せっかく作ったが……まあいい、捨てるか」


 空はのろてる坊主をゴミ箱にシュートした。未使用のお札を捨てるなど、それはそれで恐れを知らないような行為だが、てるてる坊主にしてしまった以上他の使い方は出来ないので仕方がない。


 だがのろてる坊主はゴミ箱に入る直前、空中でピタリと止まった。そしてひとりでに宙をさまよい、やがてのろてる坊主は才輝乃の手元へとやって来た。彼女が超能力でも使ったのだろう。


「捨てるなら私がもらうよ」

「え……呪いのアイテムだぞ?」


 意外そうに、ともすれば若干心配してるような空の問いに、才輝乃はのろてる坊主の顔をペンで描きながら、


「別に私が呪われるわけじゃないんでしょ?それに、せっかく作ったんだから、捨てちゃ勿体ないよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんなの」


 言いながら才輝乃はペンを動かす手を止め、空に顔の描かれたのろてる坊主を見せた。そこに描かれていたのは、可愛らしいにっこり笑顔だった。


「じゃーん。可愛いでしょ」

「……まあ素材に目をつぶればな」


 子供っぽい無邪気な笑顔でのろてる坊主ver.2を見せる才輝乃が眩しく見え、空は思わず目をそらしながらはぐらかす。

 そんな2人をニヤニヤしながら眺めていた人美だったが、ふと視界の端で謎の光景を捉えてしまった。


「って、イノリんは何をしてるの?」


 先ほどから声が聞こえないと思ったら、彼女は窓の前にいた。なぜか十字架を両手で握りしめ、窓に向かってひざまずきながら。それはまるで神に祈りをささげる聖職者のごとく。


「神様に祈ってたんです。晴れますように、と」


 まるでも何も普通に祈っていた。

 それを聞いて人美は窓から空を見上げたが、以前雨は降り続けている。

 と、思いきや。


「晴れたぁ!?」


 雨雲を割くように照らす太陽の光を見て、人美は驚愕に打ち震えた。


「良かった、祈りは届いたようですね」

「早すぎじゃないかしら……」


 十字架を握って微笑む一愛に、本当に祈りが届いた事に驚きを隠せない真季那。最先端技術で生み出された真季那には神の存在は信じがたい物だったが、一愛を見ているともしや本当にいるのかと思ってしまう。


「て、天気のだ……」


 人美のその呟きに、首をかしげる一愛。

 祈り一つで天候を操作する超常能力を持つ少女は、巷ではそう呼ばれているとかいないとか。

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