第3話 タワー建設は楽じゃない
とある休み時間。
「よ、よーし、2段目完了……!」
目指す完成は4段。なので数字で見ればあと半分な訳だが、使うトランプの枚数は既に半分を切っている。しかしあともう一息という事でもないらしい。どうやら上へ上へ行くほどに難しくなるようだ。
今倒してしまったら今までの努力が無駄になってしまう、というプレッシャーにより自然と難易度が上がるこの遊びは、そういう意味では完成に近いほど難易度が増すと言っていいだろう。なにせ積まれたトランプの枚数だけプレッシャーも積まれていくのだから。
「3段目も……あと少し……」
「右から3番目のカードが想定位置から2ミリだけズレてるわ。このままでは許容値を超えてしまう」
慎重にトランプを重ねる人美に、機械らしい正確なアドバイスを出す真季那。しかし正確すぎると今度は人間である人美には修正しようがない。困ったものだ。
「だいじょうぶ……魂込めて作れば、トランプタワーの神も応えてくれる!」
3段目も無事に完成し、残るは頂上の2枚だけ。しかしそんな所で、1段目のトランプがほんのわずかだけズレたのを、真季那は見逃さなかった。
「……まずいわ」
「え?ああああ!!」
至急修正に取り掛かろうと動いたが、時すでに遅し。ひとたび土台が軋みを上げれば、全てはただ堕ちていくだけなのだ。重力に沿って落ちていくトランプたちを見て、人美は悲鳴ともため息とも取れない声を上げた。
「くうぅ…… 血と汗と涙の結晶が……」
「惜しかったわね」
無念に散っていったヒトミタワーに重いを馳せながら、2人はバラバラになったトランプを一つの束にまとめる。
やはり真季那が指示した時に歪みを正すべきだったか……と後悔しだす人美。そして何が何でも完成させたくなった人美は、ついに禁忌の裏技を求めてしまった。
「サキは……才輝乃はいないかー!」
否。裏技などではなくただの不正である。超能力者を頼るなど不正以外の何物でもない。
だが確かに超能力さえあれば、トランプタワーどころかトランプスカイツリーまで出来上がることだろう。しかし声をあげて教室を見渡すが、あいにくお探しの超能力少女は見当たらない。
「あいつは先生に呼ばれて職員室にいるぞ」
「あ、ソラっち」
代わりに、だいたいいつも才輝乃と一緒にいる空がその声に答えた。
「ソラっちが……休み時間なのに寝てない、だと……!?」
「なんだそれ、喧嘩売ってるの?負けそうだから俺は買いませんけど」
「買わないのね……」
情けない事をさらりと口にする空に、呆れる真季那。空は自販機に飲み物を買いに行ったその帰りなので起きているのだが、いつも寝てる空が休み時間なのに起きているのは、人美にとってなかなかにレアだったのだ。つい煽りとも取れる言葉が出てしまった。
ともあれ、頼みの超能力者がいないとなると、ヒトミタワー建設は諦めざるを得ないか…… ともはや自力で完成させる事を放棄した人美だったが、ふと思いとどまる。
「そういえばソラっちも、サキみたいな不思議パワー使えなかった?ジュルーツ……だっけ?」
「呪術だよ…… なんだジュルーツて」
フルーツとジュースをミックスさせたような単語に眉をひそめる空。ちなみに関係ないが、彼がさっき自販機で買ってきた飲み物はミックスフルーツジュース。奇跡の偶然である。
「そう呪術。あれでトランプタワー作れない?」
「トランプタワー?何でそんな事聞くのかは分からないが無理だな」
空はきっぱりとそう言った。
呪術とは文字通り人を呪う術。小指をタンスにぶつけて2時間悶絶する呪いとか商店街のガラポンで必ずポケットティッシュしか当たらなくなる呪いならともかく、トランプタワーを作り上げる呪いなど存在しないらしい。
空にそう説明されて、人美は悔しそうにううむと唸った。
「やっぱり諦めろとトランプタワーの神は言っているのか……」
「いや自力で建てろよ」
「まったくその通りね」
空と真季那から呆れと糾弾の混じった視線を向けられる人美。一度楽な方法を思いついてしまうと自力では出来なくなってしまう。人間の悲しき本能が垣間見えた瞬間だった。
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