卓上カレンダー

蓮海弄花

卓上カレンダー

 僕の家には触れてはいけないカレンダーがある。それは姉のもので、絶対に触らないでと言い含められているものだった。

 三年前の三月三十一日で止まっている卓上カレンダー。姉はいつも真新しい制服姿で物憂げにそれを見つめていた。

 どうして触ってはいけないの、と尋ねたことがある。

 あんたにはわからないわよ、と返ってきた。

 姉はいつもそうである。僕の知能を侮っているのだ。


 ある日姉は机に突っ伏して眠っていた。栗色のセミロングの髪が姉の表情を隠していた。

 チャンスだ、と思った。

 カレンダーの秘密を暴くのだ。

 そうっと手を伸ばして、カレンダーを手に取る。姉がぴくりと動いた。僕がページをめくるのと同時に姉はぱっとこちらを振り向いた。

「ミコト」

 僕の名を呼び、カレンダーが四月になった時点で姉の姿も消えた。

 不思議に思っていたのだ。姉は進学前日に死んでしまっているのに、どうして姿が見えるのか。カレンダーで時間が止まっていたのだな、と思った。

 この気持ちをなんというのかわからないけれどきっと寂しいんだと思った。

 カレンダーをめくったのは間違いだった。

 取り返しのつかないことだ。

「お姉ちゃん――」

 お姉ちゃん。お姉ちゃん。きっと僕を心配して残っていてくれたのに。

 僕は未練を絶やすように卓上カレンダーを机に伏せた。

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