第28話 ひとり
「う、ううっ……」
気だるさを覚えながら、僕は意識を取り戻す。
光が射しているみたいで眩しい。
もぞもぞと動くと地面は柔らかくて、体には布のような物がかかっている。どうやらベッドの上にいるみたいだ。
ゆっくりと目を開け、体を起こす。
僕は小さな部屋に置かれたベッドの上にいた。ここはどこなんだろう、僕は辺りをきょろきょろと見回す。
するとベッドの横においてあるサイドテーブルに、水の入ったコップが置かれていることに気がつく。気づけば僕はそれに手を伸ばし、一心不乱に飲み出していた。
「ごく、ごく、ごく……ぷは! はあ、はあ……生き返った……」
こんなに水が美味しく感じたのは初めてだ。
コップの横には水差しも置かれていて、僕はすぐに二杯、三杯と水を胃に流し込んでいく。すると部屋の扉がキィ、と開いて見知らぬおじさんが中に入ってくる。
「目を覚ましたか坊主。自分で水を飲めるなら大丈夫そうだな」
浅黒い肌をしたスキンヘッドのおじさんは、無愛想な感じでそう言う。どうやらこの人に助けてもらったみたいだ。
「あの、ありがとうございます。助かりました」
「見知らぬガキなら追い返したが、
そう言っておじさんはサイドテーブルに置いてあるある物を指差す。
それはルナさんから預かったペンダント『
「やっぱり貴方は『青光教』を信仰しているの方だったんですね」
「俺、というより俺の家系、だけどな。昔から代々そうなんだよ」
僕は希薄になる意識の中、三日月の文様が入れられた道具屋の看板を見つけた。その文様は月を崇める『青光教』のシンボルだ。
僕はその店でこのペンダントを見せれば仲間だと思われるんじゃないかという一縷の望みにかけて、この店に入ったんだ。
その賭けは見事成功した。他の店だったらこんなに手厚くもてなしてはもらえなかったと思う。
「それにしてもそのペンダント。作りがしっかりしているな。もしかしてお前は結構偉い立場の人間なのか?」
「あ、えと、いえ、これは代々受け継いでいるだけなので僕は全然偉くありません」
「そうか。まあそういうことにしておこう」
おじさんは僕の言葉をひとまず信じてくれる。
流石にルナさんのことは正直に言えない。第一信じてもらえないだろうしね。
「あの、僕はカルスと言います」
「俺はタリク・ミジャールだ。たいしたもてなしは出来ないが、まあゆっくりしていくといい」
そう言ってタリクさんはテーブルの上にカットされた果物を置いてくれる。無愛想な感じだけど、かなり面倒見のいい人みたいだ。
「それ食って休んどけ。今日は動くんじゃないぞ」
「はい、分かりました。それと……本当にありがとうございます。このご恩は必ず返します」
そう言って頭を下げると、タリクさんは「ふん。ガキがそんなこと気にするな」と言って部屋から出ていった。やっぱりこの人、凄いいい人だよね。
やることのなくなった僕は置かれたフルーツをちらと見る。
赤い果肉の、見たことないフルーツだ。僕はそれを手に取り、ぱくっと一口で食べる。
「わ、すっぱくて美味しい……」
酸味と甘味が絶妙ですごく美味しい。
これはシズクも好きそうだね……と思って、自分が今一人しかいないということを思い出す。
窓の外の景色は、明らかに異国の風景。
ここまで落ち着けば、意識を失う前何をしていたかを思い出している。
「あの魔法の影響で転移しちゃったんだ……」
洞窟の中で転移されたとはわけが違う。あの時はそれほど遠くには飛ばなかったし、シシィも側にいた。
でも今の僕は完全に一人で、しかも比べられないほど遠くに飛ばされてしまった。
「セレナ、いる?」
口にしてみるけど、返事はない。
精霊は次元魔法でついてこない。あの時と同じだ。
「う、うぅ……」
寂しさがどっと押し寄せてきて、胸が張り裂けそうになる。
僕は――――本当に一人になってしまったんだ。
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