第22話 白竜は二度舞う

『ガアアアアアッ!?』


 ライザクスさんの光の吐息ブレスを食らった魔の者は、大きな叫び声を上げなら校舎の屋上に落下した。

 至近距離であんな攻撃を受けたんだ、そのダメージは計り知れない。


『油断するなカルスよ。奴はまだ生きている』

「え!? あれだけの攻撃を受けたのに?」

『ああ……どうやら地下でたらふく力を溜めていたようだ。厄介な』


 ライザクスさんも黒竜を追い、校舎の屋上に着陸する。

 すると黒竜も体を起こしてこちらを睨みつけてくる。その体にはまだ焼けた跡があるけど、どんどん傷が塞がり回復していっている。凄い生命力だ。


『忌々しい白竜にその主人アルス……まさか生きていたとはな。想定外だが、まあいい。このマグルパが貴様らをここで殺し、闇の時代の幕を開けてやろう』

『ふん、黒虫風情が舐めたことをいう。地の底で分相応に這いずっていればよかったものを。我が光が恋しくて出てきたのか?』

『きさ、ま……!!』


 マグルパと名乗った魔の者は、その顔を怒りで歪ませる。

 ライザクスさんもそんな煽るようなことを言わなくてもいいのにと思ってしまう。


『カルスよ。我が実体化出来る時間は少ない。お主も魔法で援護してくれると助かる』

「うん。セレナもお願いね」

「任せなさい。私たちの光魔法でやっつけて上げましょう!」


 僕はしっかりとライザクスさんの背に乗りながら、マグルパを見る。

 竜に乗りながら魔法を使うなんてもちろん初めての経験だ。少し不安だけど……やるしかない。


『一度私たちを倒せたからと調子に乗っていないか? 確かにあの時は遅れを取ったが……今は状況が違う』


 マグルパはそう言って恐ろしい笑みを浮かべると、翼を広げてそれを舞う。

 そこから攻撃してくるのかと思ったら……なんと僕たちから逃げるように別の方向へ飛んでいってしまう。


『む? 逃げたか?』

「いや……違う! あっちには街がある!」

『なんだと!?』


 マグルパのやろうとしていることに気が付き、ライザクスさんは高速でその後を追う。


『ぐ……あやつめ!』


 マグルパは視線の先で吐息ブレスを街の人に吐こうとしていた。それほど力を溜めてないから王都を滅ぼすほどの力はないと思う。それでも何十人、下手したら何百人の人が犠牲になるかもしれない。


「ライザクスさん!」

『分かっておる!』


 ライザクスさんは高速で街とマグルパの間に入り込む。

 するとその直後、マグルパはどす黒い吐息ブレスを吐いた。


『舐めるなよ!』


 ライザクスさんが手をかざすと、光の障壁バリアが出現する。その障壁バリアは闇の吐息ブレスをすべて受け止め、街を守りきることに成功する。あ、危なかった……。


「な、なんだあの竜は!」

「二頭もいるぞ!!」


 僕たちの姿を見た街の人達が騒ぎ始める。

 空で竜が暴れていれば気づくのも無理はない。逃げてくれればいいけど、物珍しさに見に来てしまう人もいるだろう。

 攻撃は一発も下に落としちゃいけない。


『……よく私の吐息ブレスを防いだものだ。しかしこれでどちらが不利かははっきりしたな。下にいる人間全員を守りながら私を倒すことなど不可能。貴様の負けだ!』


 マグルパは口を大きく開けると、上に向かって巨大な吐息ブレスを吐く。

 その吐息ブレスは空中で分裂し、地上へと降り注いでいく。その数は優に百を超える。あれが全部落ちれば何人犠牲になるか分からない!


『ははは! さあ早く行かないと人間を守りきれんぞ! もっとも私はその隙に人間どもを蹂躙するがな!』


 高笑いするマグルパ。

 確かに絶望的な状況だ。街を守ろうとすればマグルパが自由に動き、マグルパを攻撃すれば無数の吐息ブレスが街を襲う。


 だけど僕たちは絶望しなかった。


『カルス、そして光の姫君よ。やれるな?』


 首を回転させ尋ねてくるライザクスさん。

 僕とセレナはその言葉に即答する。


「任せてください!」

「当たり前よ、誰に言ってるのかしら?」


 僕たちの返事に満足したのか、ライザクスさんはニィ、と笑みを浮かべながら頷きマグルパの方を再び見る。


 そして大きな翼をはばたかせ、高速でマグルパに接近し始める。


『馬鹿な!? 人間がどうなってもいいのか?』

『馬鹿はそっちだ黒虫め。我らは一人にあらず。五百年前もそうであった。我らは力を合わせあの大戦を勝ち抜いた。それも分からず我の姿を真似ただけで勝てた気になるとは愚かなことこの上なし。見せてやるといいカルス、お主ら人の力を』


 五百年前、ご先祖様がどうやって戦っていたのかを僕は知らない。

 でもその時もきっと、今と同じように力を合わせて、足りないところを補い合っていたんだと思う。


「カルス、いつでもいけるわよ」

「うん。よろしくねセレナ」


 ライザクスさんの背中に跨がりながら、僕はセレナと心を通わせる。

 空を飛びながらなので音も風も凄いけど、全てを忘れて集中する。練習で何回もやってんだ、その通りにやれば大丈夫。集中、集中するんだ。


「「――――大いなる光の護壁よ」」


 詠唱を続けている間に、ライザクスさんはマグルパのもとにたどり着く。

 吐息ブレスを続けて使用したためか、マグルパの力は低下しているように見えた。ライザクスさんはその隙を見逃さない。


『我らを見くびったな黒虫。その慢心のせいで貴様らはまた《・・》滅びるのだ』

『こ、この白蜥蜴がァ!』


 マグルパは思い切りライザクスさんを殴り飛ばそうとするが、その一撃は簡単に受け止められ、逆の手でライザクスさんはマグルパを思い切り殴る。


『があッ!?』


 その一撃をもろに食らったマグルパは吹き飛び、学園の敷地内に落下する。あそこなら一般市民に被害が出ることはなさそうだね。


「「――――魔を退け、光溢れる世界を齎し給え」」


 詠唱を続け、上位魔法の準備をする。

 それは今の僕が使える最大規模の防御呪文。

 もし上手く決まらなければ、王都に住む人たちが何人犠牲になるか分からない。体に眠る魔力を全て使い切るつもりでやるんだ。


「「大いなる光の護壁ラアズ・ライ・ウォルド!!」」


 現れたのは王都全域を包み込む、巨大な守護防壁。

 僕の全てを込めたその壁は、降り注ぐ闇の吐息ブレスを全て防ぎ切ってみせるのだった。

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