第20話 圧倒
「ふふ。これなら間に合いそうだねえ」
走り去るカルスの背中を見ながら、エミリアは一人呟く。
その表情は満足げであった。
『……誰だか知らないけど、よくも邪魔してくれたね』
魔の者の一体、植樹のメリーヴァがエミリアに近づく。
その体からはいくつもの太い触手が生えその先端をエミリアに向けている。表情にこそ出していないがかなり怒っているようだ。
「おや、まだいたのかい。君の出番はもう終わっている。どこへなりとも行ってもらって構わないよ」
興味なさげに「ふあ」とあくびをするエミリア。
そんな彼を見てメリーヴァの怒りは頂点に達する。
『舐め、やがって……』
人間は自分たちの餌。そのはずなのに今自分は人間に相手すらされていない。その事実にメリーヴァの神経は激しく逆撫でられた。
『殺してやるよ! 人間!』
メリーヴァは触手をエミリアめがけ伸ばす。
一本一本が凄まじい力を持つ触手。巻き付かれただけで全身の骨が折れてしまうだろう。
しかしそんな危機的状況にあってもエミリアは一切慌てた様子はなかった。
「人間扱いされるなんていつぶりだろうねえ。懐かしい気持ちになったよ」
エミリアは不敵に笑うと、右手をパチリと鳴らす。
するとエミリアの前に強固な障壁が生まれ、触手を全て止めてしまう。
「
『何を訳の分からないことを……!』
メリーヴァは触手の先端から弾丸を撃ち出し攻撃するが、エミリアの張った障壁に傷一つつけることはできなかった。
メリーヴァの放つ弾丸『
しかし当たらなければ普通の弾丸と威力はそう変わらない。数を撃ったところでエミリアの障壁はビクともしない。
「……どうやらそれ以上の技はないみたいだね。魔の者に会えると楽しみにしてたけど、期待外れだ」
エミリアは興味の失せた表情をしながら、右手をメリーヴァに向ける。
その手から感じる悍ましい魔力にメリーヴァは逃走しようとするが、逃げるには少し遅すぎた。
「
不可視の手はメリーヴァの首から下を一瞬で消失させてしまう。
残った彼の頭部はべちゃりと地面に落下する。
『ばか、な……』
憎々しげに顔を歪ませるメリーヴァ。
そこにもうあどけない少年の顔はなかった。全てを憎む、魔の者本来の表情。
『許さない、絶対に許さないぞ人間』
何度も呪詛の言葉を吐くメリーヴァ。
エミリアはそんな彼に近づくと、興味なさそうな顔をしたままメリーヴァの頭部を踏み潰す。
「端役はとっとと舞台から降りるんだね」
数度メリーヴァの残骸をぐりぐりと踏みにじったエミリアは、校舎の屋上に目を移す。
そこでは既にカルスと魔の者の親玉マグルパが激突している。
「さて、メインステージを観賞しに行くとしようか。楽しみだよ君の返事を効くのが、ね」
エミリアは気味の悪い笑みを貼り付けながら、屋上へと向かうのだった。
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