第19話 植樹のメリーヴァ
クリスたちに魔の者を任せた僕は、ひたすらに走る。
目指すは校舎の屋上。そこに魔の者の親玉がいるらしい。
放って置いたら何をするか分からない。早く倒さないと!
「……ところでこの竜は誰なの? なんでカルスと一緒にいるわけ?」
「こ、これには深いわけがあって」
不機嫌そうに尋ねてくるセレナにライザクスさんのことを説明する。
セレナもクリスと一緒に魔法使ってたじゃん……と少し思ったけど、その言葉は飲み込んでおく。たぶん言ったらかなりややこしいことになると思う。
「……ふうん。そんなことがあったんだ。ライザクスさん、だったかしら? カルスを助けてくれたことには礼を言うわ、ありがとう。でもカルスの
凄みを利かせながらセレナは言う。
そんな挑発するようなこと言って大丈夫? とハラハラする僕。
するとライザクスさんはそんなセレナを見て、おかしそうに笑った。
『くく、そんなに警戒せんでもお主の相棒を取ったりしないから安心するといい。それに我に残された力は残り少ない。魔の者を倒したら長い眠りにつくだろう。だからそれまでの間だけ、カルスとともに戦うことを許してほしい』
「……まあそれくらいならいいけど」
唇を尖らせながらも、セレナは納得してくれた。
ふう、なんとか丸く収まってくれてよかった。
それにしてもライザクスさんに残された力が少ないなんて、知らなかった。
もしクリスが助けに来てくれなかったら、あそこで力を使い果たしていたかもしれないね。力を浪費しないように気をつけないと。
そんな事を考えながら走っていると、唐突に強い殺気のようなものを感じる。
「……!?」
咄嗟に横に跳ぶと、僕がいたところを弾丸のような物が通り過ぎる。
危ない、もう少し反応が遅れていたら確実に当たっていただろう。
一体誰が撃ったのだと後ろを見てみると、そこにはまるで普通の少年のような顔をした魔の者がいた。
『……ずいぶんと勘がいいね。当てる自信はあったんだけど』
なぜ顔が少年のなのに魔の者だと分かったのかというと、それの背中から気持ち悪い触手が何本も生えていたからだ。
それの先端には穴が空いている。あそこから弾を撃ったとみて間違いなさそうだ。
『僕は植樹のメリーヴァ。長い時をかけ進化した特別な魔の者さ。君が倒したデカいのも一応僕と同じ特別な魔の者なんだけど、あいつは僕たち三人の中でも最弱な上に頭も悪い。あれと僕を同じだと思わないほうがいいよ』
メリーヴァと名乗った魔の者の体から放たれる魔力はかなり強く、禍々しい。
確かにあのデカい魔の者よりも強そうだ。とてもじゃないけど逃げ切ることは不可能だろう。
「くっ、戦うしかなさそうだね……」
『穴だらけにしてやるよ、光の魔法使い!』
メリーヴァは背中から生えた三本の触手の先端から、弾丸のような物を撃ち出す。
回避しなきゃと足を動かそうとした瞬間、突然足が何かに掴まれた。
「え!?」
足元を見ると、なんと地面から生えた触手が僕の足首に巻き付いていた。
喋っている間に僕のもとへ触手を伸ばしていたんだ。これじゃあ回避できない!
触手を斬っていたらその間に弾丸が当たってしまう。ここは防御するしかない。「
「うん、干渉するとしたらここ《・・》だね」
すると突然「ぞる」という不快な音と共に放たれた弾丸が空中で消失する。
この不快な音と声は……まさか。
「危ないところだったねえ。親切な私に感謝するといい」
「貴方はエミリア……さん」
「ふふふ。名前を覚えていてくれてるとは嬉しいよ」
薄笑いを浮かべながら僕の前に現れたのは、魔術協会の長エミリアだった。
この人のことを忘れるわけがない。だってこの人のせいで師匠は賢者の名を剥奪されたんだから。
「一体何が狙いですか。なんで僕を助けるような真似を?」
「おやおや、ずいぶん嫌われてしまったものだ。純粋な善意とは思わないのかい?」
「ええ、思いません」
そう即答すると、彼は「ぶふっ」と楽しそうに吹き出す。
本当に何しに来たんだこの人は……?
「まあ私にも人並みに考えていることはある。だけどそんなこと気にしている暇はあるのかい? あれの相手を私がしてあげると言っているのに。たとえ私に企みがあったとしても、ここは乗るべきじゃないのかい?」
「……」
嫌だけどこの人の言っていることはもっともだ。
今は一秒でも時間が惜しい状況だ。この魔の者をこの人に押し付けるのが最善の策に思える。
「……分かりました。貴方のことは信用できませんが、ここはお願いします」
「それでいい。ほら、あんな端役は私に任せてさっさと行くといい」
シッシと手を振るエミリアさん。
本当にこの人は何を考えているんだろう。
だけど今はそんな事考えている暇はない。急いで走り出そうとしたその時、地面からたくさんの触手が僕を取り囲むように生えてきた。
『僕を無視しないでよね!』
触手は僕に巻き付こうと襲いかかってくる。
こんなものに巻き付かれたら骨が折れてしまうだろう。急いで魔法を使おうとするけど、それより早くあの人が動いた。
「――――
そうエミリアさんが唱えた瞬間、いくつもの閃光が走り、触手がバラバラに切断されてしまう。なにかしらの魔術だとは思うけど、何が起きたのか全く分からない。
この人はやっぱり危険だ。
「さ、行くといい。君が成すべきことを成すんだ」
「……はい」
後ろ髪を引かれながらも、僕はその場を後にするのだった。
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