第17話 竜の力

「まさかこんな状況になっているなんて……」


 ライザクスさんと共に地上に出た僕は、凄惨な状況を見て愕然とする。

 暴れまわる魔の者と、傷つきながらも戦う人々。


 こんなにも侵攻するスピードが速いなんて。早くなんとかしないと!


『ガアアアアアアッッ!』


 魔の者たちが僕に襲いかかってくる。

 地下でこいつらと戦った時は魔法は使えなかったけど……今の僕には光の精霊ライザクスさんがいる。

 転送する直前に竜の魔法も少し教えてもらった。この力さえあれば……負けない!


光竜の双爪ラド・ツヴァウ・クロゥ!」


 両手の先に巨大な竜の手が現れる。

 僕が魔の者に向かって手を振るうと、その手も連動して動き、鋭く大きい爪で魔の者を次々と切り裂いていく。


「さっきの魔法もそうだけど、凄い威力だ……!」

『ははは、そうだろう。これぞ竜の力、精霊の姫にも劣りはせぬぞ』


 上機嫌に言うライザクスさん。

 ライザクスさんと放つ魔法の威力は、セレナのものより強い。


 だけどその分たくさん魔力を使うし、繊細なコントロール力はセレナのほうがずっと優れている。大雑把な攻撃ならライザクスさんの方が強いけど、複数の魔法を操ったり人を治療するのはセレナの方が上手いと思う。

 憑く精霊によって発動する魔法にこんなにも個性が出るんだ。


「さあ! 次は誰が来る!」

『ググ、コイツ……!』


 魔の者は竜の魔法に警戒しているみたいで、進行が止まる。

 すると僕のもとに一人の人物がやって来る。


「カルスさん。私は負傷者の手当をしてきます」

「分かった。よろしくねシシィ……じゃなかった、セシリアさん」

「ふふ。はい、任せて下さい」


 目隠しをつけ、一人の少女から聖女へと戻ったセシリアさんは負傷者の治療をしに行った。

 そっちは任せてしまって大丈夫だろう、僕は魔の者に集中しないと。そう思っていると、


「カルス! 無事じゃったか!」

「え! 師匠!?」


 意外な人物に声をかけられ、僕は驚く。

 まさか師匠がここに来ているなんて思いもしなかった。


 激しい戦闘のせいか師匠はかなり疲れている様子だった。服にはいくつも赤い染みが滲んでいる、きっとあちこち怪我をしているんだろう。


「おお良かった、本当に無事じゃったんだな……」


 師匠は僕の体をペタペタと触って、無事を確かめると瞳に涙を浮かべる。

 まさかそこまで心配をかけていたなんて……。


「ごめんなさい師匠。心配をおかけしました」

「よい、よいのだ。無事であるならな。話したいことはいくつもあるが……今はこの場をどうにかしてからにするとしよう」

「はい、そうですね」


 僕たちはジリジリと距離を詰めてくる魔の者に目を向ける。

 よほど僕とライザクスのことが嫌いなんだろう、彼らの僕たちに向ける殺意は他の人に向けるそれとは全くの別物だった。


『ハクリュウ、アルス……イキテタトハ……』

『コロス、コロス!』


 やっぱり僕はご先祖様と間違えられている。

 ライザクスさんも言っていたけど、そんなに似ているのかな?


「ところでカルス。お主の側にいるその竜は仲間……と考えていいのか?」

「はい。心強い味方です!」


 僕が肯定すると、ライザクスさんも『うむ。存分に我に頼るといい』と喋る。

 すると師匠はビクッと体を震わせ驚く。どうやら喋るとは思っていなかったみたいだ。


「上位の竜は言語を解すると聞いたことはあるが、これほど流暢に喋れるとは思わなんだ。味方になってくださるとは頼もしい、どうぞよろしくお願いします」

『ああ、我に任せると良いカルスの師よ。かような蛆虫ども、我が全て屠ってくれよう』


 ライザクスさんはギロリと魔の者を睨みつける。

 するとその眼光に圧され、魔の者たちの歩みが鈍る。


 すごい。睨んだだけで動きを止めるなんて。それほどまでに魔の者にとってライザクスさんは脅威なんだ。


「よし、じゃあ早速……」

『いや待てカルスよ。なにかおかしい』

「へ?」


 ライザクスさんは校舎の上の方を見ながら呟く。

 いったいどうしたんだろう。


『建物の上の方から一際強い闇の魔力を感じる。ここにいる雑魚よりもずっと強い力だ。放っておけばマズいことになるだろう』

「……そうじゃった。奴らの親玉がまだ残っておった」


 ライザクスさんの言葉に、師匠が反応する。

 確かに言われてみれば上の方から嫌な雰囲気を感じる。


『カルス。お主の魔力にも限界はある。ここで浪費するべきではないだろう』

「そんな! でもこいつらを倒さないとみんなが!」


 ここにはたくさんの人間がいる、彼らを見捨てるなんてことできるはずがない。

 一体どうすればいいんだ。悩んでいると二の足を踏んでいた魔の者たちがジリジリと僕のもとに近づいてくる。


「こいつら……!」


 魔の者たちの口元が緩み始める。

 僕が攻めあぐねているのを見て、自分たちに攻撃ができなくなったのを察したんだ。今はまだ警戒しているけど……それも時間の問題。このまま手をこまねいていたら雪崩のように一気に攻めてくるだろう。


「どうすればいいんだ……!」


 せっかく地上に戻れたのに、どうすることも出来ないのだろうか。

 何か、何かこの状況を打破出来るものを探すんだ。


『アルス、コロス!』


 堰を切ったように魔の者たちが襲いかかってくる。

 しょうがない、ここは戦うしかない。

 覚悟を決めて魔法を使おうとしたその瞬間、少し離れた所で大きな爆発が起きる。


「え!?」


 驚きそっちに目を移すと、一人の人物がこちらに向かって走ってきていた。

 手に光り輝く剣を持ったその人は、魔の者を次々と切り裂きながら駆ける。あの光はもしかして光魔法?


 僕と師匠、それにセシリアさん以外に光の魔法使いがいたの!? 少なくとも魔法学園の生徒にはいなかったはずだけど。


「はああああっ!!」


 光魔法を使う剣士は、目の前に立ちはだかった大きな魔の者を一刀両断すると、大きく跳躍し僕のもとに着地する。

 その人の顔を見た僕は……驚愕した。


「やあっと帰ってきたわね。心配したんだから」

「ク、クリス!?」


 現れた彼女の名前を呼ぶと、クリスは嬉しそうに「ひひっ」と笑みを浮かべた。

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