第14話 圧倒的強者

光の槍ラ・サクス!」


 ゴーリィが叫ぶと、杖の先から光の槍を出現する。

 それを横薙ぎに振るうと彼を襲おうとしていた魔の者たちは切り裂かれ、地に伏せる。


「はあ……はあ……キリがないのう」


 肩で息をするゴーリィ。

 既に何十体もの魔の者を倒したにもかかわらず、一向に敵の勢いは衰えなかった。


 それどころか最初より数が増しているようにも見える。さすがのゴーリィもこれには参ってしまう。


「カルス、無事でおってくれよ……!」


 弟子のことを心配するゴーリィ。

 するとその一瞬の隙を付き、小型の魔の者がゴーリィに飛びつき噛みつこうとしてくる。


『ゴアッ!!』

「しま……っ!」


 魔法が間に合わない。

 痛みを覚悟するゴーリィだったが、牙が触れるその刹那、ある人物の声が響く。


「渇け」


 次の瞬間、唐突に魔の者の体がしぼみ、カラカラの状態になってしまう。

 かなり苦しいようで魔の者は『ゴ、ゴァ……』と苦しそうに呻いている。その間もその体から水分はどんどん失われていき、最終的には魔の者の体はミイラのようになってしまう。


 完全に活動不能になったその体は最終的に砂のように崩れ、消える。


「魔力生命体といえど、水分は重要なようだ……ならば朽ちさせることも容易い……」


 そう言いながらゴーリィの前に姿を現したのは腰の曲がった長身の老人であった。

 手には枯木でできた杖を持ち、動作は緩慢。まるで幽鬼のようであった。


「感謝いたしますムーングリム殿」

「……仕事でやったまでだ」


 無愛想な感じでそう答えたのは、大賢者の一人、“枯れ木”の異名を持つムーングリムであった。

 メタルとは何度か仕事をしたことがあるゴーリィであったが、ムーングリムと共に仕事をするのは初めてであった。


 無論仕事はしたことはなくても大賢者である彼のことは知っているし、話したこともある。

 初めてあったのは協会に入ってすぐのことであり、ムーングリムはその頃から今のような老人・・であった。

 なのでしばらく後に会った時、見た目がまったく変わっていないことにゴーリィはたいそう驚いた。勇気を出して直接聞いたこともあったが、要領を得た回答は得られなかった。


 彼は大賢者とは化物。真面目に考えるだけ無駄だということをその時に痛感した。


「ああ……面倒くさい。早く帰りたいというのに次から次へと……」


 苛立ちながらムーングリムはその大きな右手を正面に突き出す。

 そしてくわっと目を見開くと、手の先にいた十数体の魔の者が一斉に苦しみだす。


『ガ、ガア……!?』


 見る見る内に彼らの体から水分が蒸発し、体が乾いていく。

 何かをされているのは分かるが、何をされているのか全く分からない。結局彼らは抗うまもなくミイラとなり、死ぬ。


 その様子を見ていたゴーリィは戦慄する。

 これが魔法なのか魔術なのかすら分からん。やはり大賢者は化物だ……! と。


「移動するのも面倒だ……ここは私がやる。お前は他に行くといい」

「分かりました。お願い致します」


 近くにいたら巻き込まれる可能性もある。

 ゴーリィはその場を彼に任せ、場所を移動する。


「数は……減っている様子はないの……」


 地面に入ったヒビからは魔の者が出現し続けている。現状なんとか抑えきれてはいるが、徐々に騎士と魔法使いたちの顔に疲れの色が浮かび始めている。


 一旦回復魔法をかけた方がいいか。

 そうゴーリィが思った瞬間、地面に入ったヒビからとてつもない魔力が吹き出す。


「なんじゃ……!?」


 その悍ましい魔力にゴーリィは戦慄する。

 今までの魔の者からも気持ちの悪い魔力は感じた。しかし今感じるそれはそれまでの物とは次元が違った。


『なんだ……まだ、一人も殺せていないのか?』


 ヒビより現れたのは、三体の魔の者。

 大柄なのが一体と、小柄なのが二体。その全員が人の形をしている。


 ゴーリィが気になったのは、その者の言葉が流暢りゅうちょうだということ。今までの魔の者も喋りはしたが、たどたどしい感じで上手くは喋れなかった。


 しかし新しく現れた魔の者は人間と同じように喋った。

 それはつまり人間並みの『知能』を持っている可能性が高いということ。知能が高ければ魔法や魔術の威力も上がる。

 ただでさえ強靭な肉体を持っているというのにそれが加われば厄介では済まなくなる。


『ス、スミマセン。マグルパサマ』


 魔の者の一体が、新しく現れた小柄の魔の者に謝罪する。

 どうやらこの『マグルパ』という名前の個体がリーダー格らしい。


 マグルパは辺りを見回し、状況を確認する。


『人間も一丁前に備えていたみたいだね。久しぶりの食事だ、派手にいくとしよう』


 マグルパは近くに置かれている大きな瓦礫を手で触れる。

 それは地面にヒビが割れた際にできたものだ。


 マグルパはそれを右手で触りながら魔法使いが集まっているところを見て、反対の手で指を鳴らす。


送転移アスポート


 そう言った瞬間、大きな瓦礫がその場からパッと消えてしまう。

 いったい何が起きた? そう周りが思っていると、急に地面に影が差す。


 雲が現れたのかと思い空を見上げると、そこには先程まで地面に転がっていた瓦礫があった。


「た、退避!! 潰されるぞ!!」


 蜘蛛の子を散らすように騎士たちは逃げる。

 そして彼らがいた地点に瓦礫は墜落、爆音と砂煙を立てる。


「あ、危なかった……」


 もう少し逃げるのが遅れていれば、瓦礫の下敷きであっただろう。騎士たちは冷や汗をかく。

 その様子を見ていたゴーリィも驚いていたが、彼が着目していたのは魔の者が使った魔法についてだった。


「あれは次元魔法……!? そのようなものまで使えるとは……!!」


 時や空間に作用する魔法、魔術、その他魔法的現象を総称して『次元魔法』と呼ぶ。

 次元魔法は極めて珍しいもので、ゴーリィですらそれを見たのは片手で数えられる程度である。


 そのようなものを人間ではなく、魔の者が使えるなど、信じられなかった。


『くくく。お前たちも存分に暴れ、苦痛を撒き散らしてくるといい』


 マグルパの命を受け魔の者たちの勢いが一層増す。

 戦闘は更に激化の一途を辿るのだった。

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