第12話 開戦
「かかれ! 一匹も討ち漏らすな!」
ダミアンの指揮のもと、騎士たちが魔の者に斬りかかる。
魔の者の姿形、大きさは様々だ。小さいボール程度のものから、大きな人型とバリエーションに富んでいる。
小さいものであれば騎士でも倒すことはできた。しかし大型となると、そう簡単にはいかない。
『ジャマ……ダ!』
大ききな人型の魔の者が太い腕を振り回すと、騎士数人が吹き飛ばされる。
隙を見て騎士は剣を突き立てるが、その皮膚は硬く浅い傷を与えることしかできない。
「ちらほらと強い個体がいるな……!」
ダミアンも指揮を取りながら何体か倒したが、魔の者は想像以上の難敵であった。
彼らは死を恐れず真正面から捨て身で突っ込んでくる。
生命力も高く、真っ二つに切り裂いてもしばらく動くほどだ。
酷い腐臭に耳障りな声、そして恐怖を駆り立てる見た目と相手をしているだけで気が滅入ってくる。騎士の中には早々に戦意を喪失する者もいた。
「殿下! 大型がこちらに来ます!」
ダミアンがそちらを向くと、すでにかなり近くまで大型の魔の者が接近してきていた。
騎士たちが必死に応戦しているが、腕を振るたび枯れ葉のように吹き飛ばされてしまう。
「殿下に近づけるな!」
騎士たちは魔法も使い魔の者に果敢に攻撃する。
しかしいくら傷をつけても立ちどころに再生してしまい足止めにもならなかった。
騎士をなぎ倒しながら進んでくるそれは、ダミアンと目が合うと、にちゃあ、と醜悪な笑みを浮かべた。
「あいつ。明確に俺を狙っている……!」
魔の者に高い知能はない。
あるのは他者を不幸にしたいという強い衝動のみ。
その衝動ゆえに彼らは相手が何をされると嫌なのかを感じ取る能力が高い。
騎士たちが一番嫌がるのは王子であるダミアンが傷つけられること。魔の者はそれを本能で感じ取り実行に移したのだ。
『ガアアアアアアァ!!』
雄叫びを上げながら猛追する魔の者。
剣も盾も魔法もまるで役に立たない。騎士たちの顔に絶望が滲み出始めたその時、一人の人物が魔の者の前に立ちはだかる。
「はっは! 元気のいいやつだ!」
鉄兜を被った大賢者、メタル。
彼はまるで散歩でもするような軽やかな足取りで魔の者の前に現れた。
魔の者は突然の乱入者に動揺することなく、他の騎士同様メタルをその太い腕で殴り飛ばす。しかし、
『ガ……?』
その拳はメタルに当たった瞬間、ガチン! と大きな音を立てて止まってしまう。
それだけではない、魔の者の拳は砕け、黒い液体が傷口からボタボタとこぼれ落ちている。
魔の者が拳を当てた瞬間感じたのは、まるで巨大な岩、いや鉄の塊を殴ったかのような感触。とても人を殴ったようには感じ取れなかった。
しかも目の前の人物は魔法を使ったようにも見えない。魔の者は大いに困惑する。
「どうした? 終わりか?」
『グゥ……!!』
メタルの問いに魔の者は激昂する。
彼らは人間は脆弱な存在、自分たちに不幸を供給する餌としか認識していない。
ただ一つの例外が五百年前に自分たちを滅ぼしたあの男。
白竜の背に乗り、巨大な光の槍を操るその男を、魔の者たちは唯一恐れた。
しかしあの男はもう死んだはず。あのような者が二人と存在するものか。
魔の者は怒りに身を任せて何度も何度もメタルを殴打する。
『ガアアアアアアッッ!!』
「ははっ、元気だな! ではそろそろこちらもお返しするとしよう」
メタルは右の拳を握り、ひゅっと正拳突きを放つ。
なんの変哲もないただのパンチ。しかしその攻撃は魔の者の体に大きな風穴を空けてしまう。
『ガ……?』
左の腹に大きな穴が空いたことで魔の者の上半身は左に傾く。何が起きたのか分からず困惑する魔の者に対し、メタルは二発、拳を放つ。
メタルはその場から動いていない。それなのに再び魔の者には新しい風穴が二つ空いてしまう。
彼は拳から生まれた衝撃波だけで、大砲のごとき威力を放てるのだ。
『アリ……エ……ナイ』
体にいくつも穴が空いたことで魔の者は自分の体を支えきれなくなり、その場に崩れ落ちる。
メタルはダメ押しとばかりに魔の者の頭部を踏み潰す。
「相手が悪かったな! 私の肉体には
大賢者の中でも『最硬』と名高い男、メタル。
彼は戦場に赴くとは思えない軽やかな足取りで、魔の者たちの中に入っていくのだった。
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