第6話 大賢者
大賢者。
それは数いる魔法使いの中でも、本当に優れた魔法使いのみが名乗ることを許された称号。
当然その数は少なく、歴代で一番多かったときでも十人を超えることはなかった。
全ての魔法使いから尊敬、あるいは畏怖される大賢者だが、ローラは大賢者が大きく二つの種類に分別できると考えていた。
一つはその成果から認められた魔法使い。
大きな発見や魔法使いの世界に大きく貢献したことから、大賢者になった者。
たくさんの魔法使いを育成したゴーリィなどはこれに当たるだろう。本人が辞退してしまったため大賢者になることはなかったが。
そしてもう一つは、圧倒的強さから選ばれた者。
魔法使いの中には時折、常識では考えられない力を持ったものが現れる。
一人で一つの軍、または国家と対等に戦える存在。そのような人の皮を被った化物が生まれることがある。
そのような国家級戦力を有する魔法使いも協会は『大賢者』に任命する。
学園長室に現れた二人の大賢者はどちらも
つまり二人の人物は国家戦力級の力を持ったゴリゴリの武闘派ということになる。
「……ああ、死にたい。このまま朽ちて死にたい……」
「久しぶりだなローラ、元気にしてたか! 俺が来たからにはもう安心してくれていいぞ!!」
気だるそうにする老人と、元気ハツラツといった感じの兜の男。
同じ大賢者ながらその性格は正反対に見える。
「他にも魔法使いを百人近く連れてきている。まあこれだけいれば負けることはないだろう。こいつらの指揮はローラ、君に任せる。まあ上手く使ってくれ」
「わ、私がですか? 指揮は会長が取られるのでは?」
エミリアの思わぬ言葉にローラは困惑する。
賢者であるローラにとって、大賢者二人は自分より目上の存在である。
それにに二人は自分より魔法使いとして圧倒的に格上の存在。上手く使えるどころか萎縮してしまうと思えた。
「私は一人で行動させてもらう。せっかくの大舞台だ、最前席で楽しまないとね」
「何を訳のわからないことを……」
「くく、まあ見てれば分かるさ。今回はもう一人助っ人を連れてきたからそいつと頑張ってくれ」
「助っ人?」
「ああ、君もよく知っている人物だよ。まあ仲良くやってくれたまえ」
そう言ってエミリアは機嫌良さそうに学園長室から去っていく。
本当に勝手な人だと呆れていると、エミリアが言っていたもう一人の助っ人が学園長室に姿を現す。
「やれやれ。お主も大変なことを頼まれたものじゃのお」
「あなたは……!」
入ってきた人物を見て、ローラは目を丸くする。
その人物は彼女もよく知った人物であった。
「儂も力を貸す。まずは何をすればいい?」
彼の名前はゴーリィ・シグマイエン。
カルスの師にして、長い魔術協会の歴史で唯一『大賢者』の座を辞退した人物だ。
「ご、ゴーリィ様!? なぜここにいらっしゃるのですか!?」
そう声を上げたのはマクベル。
カルスと同じく彼もまた、ゴーリィに手ほどきを受け魔法を学んだ弟子だ。
光魔法を習得することはできなかったが、ゴーリィのおかげで優秀な魔法使いになることができ、今でも彼はゴーリィのことを強く尊敬している。
「エミリアの奴に声をかけられたのじゃよ。まったく、儂が王都にいるとどこで掴んだのやら」
はあ、と呆れ顔でゴーリィはため息をつく。
「あやつの言葉など普段であれば無視するところだが、可愛い弟子が窮地とあれば放っておくわけにもいくまい。ローラ、儂にも協力させてくれぬか?」
「ええ、もちろんです。協会を抜けた貴方に力を貸していただくのは申し訳ありませんが、お願いいたします」
「なに。お主にはカルスを見てもらっている恩もある。遠慮せんでいい」
そう頼もしく言うゴーリィを見て、ローラは心の中で「よかった」と胸をなでおろす。
自分一人で大賢者二人を御するのは危険だが、ゴーリィがいれば話は別。彼ならばきっと二人をうまく使ってくれるだろう。
「生徒の避難と国王陛下への報告は私が指揮を取ります。貴方は協会の者と共に学園防衛の準備を進めて下さい」
「任された」
ローラの言葉に頷いたゴーリィは、部屋にいる二人の
「ということでご両人、儂と来ていただけますかな?」
「ああ……構わない。言われたことをやるまでだ」
「もちろんだ! 一緒に仕事をするのは久しぶりだなゴーリィよ! 実に楽しみだ!」
テンションが両極端な二人の大賢者を連れ、ゴーリィは学園長室を出る。
部屋に自分とマクベルだけになったのを確認したローラは「ふう……」と重いため息をつく。エミリアが部屋に入ってきてからまだ数分しか立っていないのに、徹夜で働いたような疲れを彼女は感じていた。
「大丈夫ですか学園長。少し休まれますか?」
「いえ……大丈夫です。今こうしている間にも、生徒は危険に晒されています。休んでいる暇はありません」
「分かりました。私も微力ながら手伝わせていただきます」
「ありがとうございますマクベル先生」
ローラはそう言ったあと立ち上がり、行動を開始するのだった。
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