第2話 後悔
――――遺跡内部、白竜像前。
現れた魔の者たちは全て白竜の像が放った光により消え失せた。
下から現れる気配ももうない。
しかしその場に佇む一行の表情は暗かった。
「カルスーーーーーーっ!!」
クリスの悲痛な叫びが遺跡内にこだまする。
一行は遺跡内をくまなく探したが、消えたカルスとセシリアの姿はどこにもなかった。
「……カルスたちのことは気がかりだが、いったん外に出よう。このことを学園に報告しなければいけない」
教師であるマクベルがそう切り出す。
二人の生徒のことは気になるが、またいつ魔の者が姿を現すか分からない。もう光魔法の使い手がいない以上、次も切り抜けられる望みは薄い。
ここにいるのは非常に危険なのだ。
そのことを分かっているヴォルガとジャックはマクベルの言葉に頷くが、クリスは背を向けたまま返事をしなかった。
「クリス。気持ちは分かるが、外に行こう。あれはおそらく次元魔法……二人はここから離れた場所に飛ばされた可能性が高い。ここにいても見つからないだろう」
マクベルがそう説得すると、クリスは振り返り鋭い目でマクベルを睨みつける。
悔しさからか彼女の目元は赤くなっている。
「私は残ります。戻るならどうぞ」
「……あまり意地になるな。カンテラは私の持っている一個しかない。暗い洞窟で一人になって何が出来る? またあの化物に襲われて、本当に一人でどうにかなると思っているのか?」
「それでも! それでも私はやらなきゃいけないんです……!」
唇を噛み、体を震わせながらクリスは言う。
自分が無茶なことを言っているのは彼女自身よく分かっていた。それでもこのまますごすごと帰るわけにはいかなかった。
「私はカルスの騎士になると約束したんです。それなのに化物との戦いでは役に立つこともできなくて……挙句の果てに消えるところを間抜けな顔で見ていることしかできなかった。それなのに帰るなんて……」
握る拳から血が滴り落ちる。
悲しみ、悔しさ、無力感。色んな気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合い、彼女の心を黒く濁らす。
なんと声をかけていいかマクベルが悩んでしていると、痺れを切らしたようにヴォルガがクリスのもとに近寄り、乱暴に彼女の襟を掴み詰め寄る。
「おい、あんまりふざけたことを抜かすなよ」
「…………」
一触即発の空気。
今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな空気にジャックはハラハラしながら二人を見守る。
「貴様が死にたいというのなら放っとくが……違うだろ? カルスを助けたいのだろう?」
「……当たり前じゃない。そのために私は残るって言ってるの」
「
ヴォルガは言い聞かせるようにクリスに言う。
「カルスの身に何が起きたかは分からない。でもあいつなら必ず戻ってくると俺は信じている。だから戻ってきた時に、その時に助けられるよう、今は戻り体制を立て直すべきだ」
そう言ってヴォルガは掴んでいたクリスの襟を離す。
彼が話し終わる頃には、クリスも少し落ち着いていた。
「で、どうする。まだ残るつもりか?」
「……いいえ。私が悪かった、ごめんなさい」
そう言ってクリスはヴォルガたちに頭を下げて謝る。
ここまで素直に謝罪すると思っていなかったヴォルガは感心したように「ほう」と言う。
「私もカルスなら必ず戻ってくると信じてる。だからその時に今度こそ守って見せる」
「ああ、いい答えだ。それじゃあとっととここからおさらばしよう」
こくりと頷いたクリスは、他の者たちと一緒に遺跡を後にするのだった。
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