第8章 白竜伝説

第1話 ひとり

「う、うう……」


 痛む頭を擦りながら、僕は体を起こす。

 ここは……どこだ? 真っ暗で何も見えない。ひとまず明かりをつけないと。


光在れライ・ロ


 そう魔法を唱えたけど、何も起きない。

 おかしいな。いったいなんでだろう。


「しょうがない。ランタンをつけよう」


 ゴードンさんから貰った魔法の小鞄ポーチには、結構な量の荷物が入る。

 僕はその中に魔石灯で光るランタンを入れてきていた。これなら誰でも明かりをつけることが出来るからね。


「お、ついた」


 カンテラが辺りを照らす。

 そこは変わらず地下の中だった。下は舗装されてないただの土で、天井は結構高い。

 横方向にはかなり広くてカンテラじゃ端まで照らすことができない。


「さっきまでいた遺跡とは別の場所みたいだね……」


 一瞬にして場所が変わる。

 考えられるとしたら『次元魔法』の一種だろう。


「師匠から空間を一瞬にして移動できる魔法や魔術が存在するってことは聞いたことがあるけど、まさか自分がそれにかかるなんて……ん?」


 地面に何かが動くのを感じて、視線を下に移す。

 するとそこにはセシリアさんの姿があった。


「せ、セシリアさん!? 大丈夫ですか!?」


彼女は意識がないみたいで、床に横になったままだ。

 側にしゃがみ込んで様子を確認すると、ちゃんと息はしていて脈も正常だった。どうやら気を失っているだけみたいだ。


「……ふう、よかった」


 一安心した僕は、今の状況を打破する方法を考え始める。

 パニックになったら僕だけじゃなくてセシリアさんも危ない。冷静に考えるんだ。


「……だんだん思い出してきたぞ。確か白竜の像が光って、足元に魔法陣が現れたんだ。あれが次元魔法だったんだろうね。あの魔法陣は僕だけじゃなくてセシリアさんの足元にも現れていた。つまりあの仕掛けは僕たち二人を『選んだ』ことになる……」


 僕とセシリアさんの共通点といえば、まず一番に思い浮かぶのが『光魔法』の使い手だということ。もしそういう理由で選ばれたのだとしたら、ここに来たことには何かしらの意味があるはずだ。

 あの白竜の像を作り、この仕掛けを作ったのは、僕のご先祖様である確率が高いのだから。


「ひとまずセシリアさんが目覚めるまで待つしかなさそうだね。下手に動き回るのも危ないし」


 少し休もう。

 そう思った瞬間、僕は嫌な気配を感じ取り体がぞくりと震える。


「――――ッ!!」


 気配のする方向に振り返ると、そこにはゆっくりと近づいてくる魔の者の姿があった。恐ろしい口を開きながら涎をこぼすその姿は恐怖を駆り立てる。


「セシリアさんがいる以上、逃げる訳にはいかない。やるよセレナ!」


 僕は頼りになる相棒にそう話しかける。

 しかしいつもなら返ってくる頼もしい返事は……いつまで待っても返ってこなかった。


「へ……?」


 慌てて辺りを見渡すけど、どこにもセレナの姿がない。

 ここで僕は最初に目が覚めた時、魔法が使えなかったことを思い出した。あの時は目を覚ましたてで上手く魔力を出すことができなかったのかと思ったけど……違った。


「セレナがいない……!!」


 次元魔法は精霊を連れてきてはくれない。

 そう仮定すると辻褄が合う。


 だけどその仮定が正しかったなら、状況は最悪だ。

 僕だけじゃなくてセシリアさんまで魔法を使えないことになるんだから。


『グル……』


 混乱している間にも魔の者は近づいてくる。


 どうする。どうすればいい。

 魔法無しでどうやってこの状況を切り抜ける。


 魔力で肉体を強化して戦うことはできる。だけど魔力強化だけで敵う相手じゃないことはさっきの戦いで身にしみている。

 もっと強力な攻撃手段が必要だ。


 強力な再生能力を持つこいつらを一撃で倒せる。そんな強力な攻撃手段が――――


『ルルル……ガアアアッ!!』


 僕が攻撃してこないのを見て、魔の者は襲いかかってくる。

 考えろ、考えるんだ。

 僕はこんなところで死ぬわけにはいかない。


 焦る僕の脳裏によぎるのは、今までの記憶。

 これが走馬灯か、見るのは初めてだ。走馬灯は今までの記憶から窮地を乗り越える手段を脳が探すことで起きる現象、と聞いたことがある。


 僕も探すんだ。この中から生き延びるための道を。


「…………っ!!」


 永遠にも感じる時間の中、僕はついにそれを見つける。

 左胸に手を当てて、そこ・・に深く集中する。この力を使うのは怖い。だけど今殺されるよりはずっとましだ。


「お前も僕の体に居座っているなら……少しは力を貸せ! 呪いの刃カースエッジ!!」


 呪いを指先で掴み取り、思い切りそれを振るう。

 すると左胸から黒い大きな刃が放たれ、魔の者を一瞬にして両断してしまう。


 呪いの力を我が物とし振るうこの技は『呪闘法じゅとうほう』と呼ばれている。

 使うとかなり体が痛むし、魔力もそれなりに使うけど威力は凄まじい。それになにより精霊の力を使わない・・・・・・・・・

 つまり今の僕でも使えるってことだ。


「はあ……はあ……できた……」


 痛む左胸を押さえながら僕はほっと胸をなでおろす。

 呪いの刃カースエッジを食らった魔の者は再生できず消えていく。どうやら呪いの力はこいつらにも効くみたいだ。


 しかし安心している時間は長くは続かなかった。


「……今の音で集まってきたみたいだね」


 大小様々な魔の者たちが、僕のもとにぞろぞろと集まってくる。

 数は十じゃきかない。この広い空間にいったいどれだけいたんだろう。


「来るなら来い! セシリアさんには指一本触れさせないぞ!!」


 そう啖呵を切った僕は、暗闇の中で魔の者たちとの死闘を繰り広げるのだった。

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