第23話 泥
現れたその化け物の全長は十メートルほど。遺跡の天井まで届く大きさだ。
生えている八本の手足は太く大きい。人間なんて簡単に踏みつぶせてしまいそうだ。
この大きさだと上位魔法ですら倒せるか分からない。セシリアさんと上位魔法を同時に撃てば効くかもしれないけど、そうはいかなかった。
「はあ……はあ……!」
ここに来るまでにセシリアさんはかなり魔法を使ってしまっていた。
呪いのせいで人並み外れた魔力を持つ僕ですら結構つらいんだ。セシリアさんの魔力はもう尽きかけているに違いない。
どうすれば、どうすればいいんだ。
思考を必死に巡らせる中動いたのは、意外な人物だった。
「
突然魔の者の足元の地面が泥に変化する。
大きな体を持つ魔の者の体重は当然重い。足がずぶずぶと沈んでいってしまう。
「へへ、どんなもんだい。お前みたいなデカブツにはよく効くだろ」
そう得意げに笑ってみせたのはジャックだった。
「ジャック! いつからこんな魔法を!?」
「お前に弟たちのことを聞いてから特訓してたのさ。もっとすげえ魔法を覚えてから披露しようと思ってたんだけどな」
「この魔法でも充分凄いよ! これって複合魔法でしょ!?」
複数の属性を扱える魔法使いは、その属性を
泥なら水と土の複合魔法だ。
でも複数の属性が使える魔法使いがそもそも少ないし、その中でも複合魔法が使える人はごく僅かだと聞いたことがある。ジャックがこんなに早くそれを習得できたのは本当にすごい話だ。
『ガ……ア……!』
魔の者は泥に足を取られながらもこっちに向かってくる。
するとジャックはダメ押しとばかりに魔法を唱える。
「いい加減止まりやがれ!
泥の中から太い木の幹が生えてきて、魔の者の体を縛り付ける。
凄いパワーだ。あの巨体を抑え込んじゃうなんて。
「俺の作った泥は栄養たっぷりでな……そこから生えた木は元気いっぱいって寸法よ……!」
ジャックの使える三つの属性、土、水、木を存分に活かした戦法だ。
まさかこんな技を生み出していたなんて驚きだ。
「カルス! 長くは抑えられねえ! 頼んだぞ!」
「うん! 任せて!」
ジャックの作り出してくれたチャンスを無駄にはしない。
僕は魔力を溜め、魔法を放つ準備をする。
狙うは大きく開いた口。一発で決める!
「大いなる光の
魔法を発動させると、光り輝く巨大な剣が僕の頭上に現れる。
その剣は魔の者の大きな口めがけて発射され、見事口内に突き刺さる。
『ガ……ア……ッ!?』
魔の者は苦しそうにもがき、呻く。
なんとか刺さった剣を噛んだり頭を振ったりして抜こうとするが、剣は体を貫通するほど深く突き刺さっている。そう簡単に抜けたりしない。
大きな魔の者の体はぼろぼろと崩れ、消えていく。いくら頑丈な魔の者といえど、体の中に光魔法を食らえば耐えきることは不可能だったみたいだ。
「よし、これで……」
遺跡から脱出できる。そう思った次の瞬間、再び床の亀裂から魔の者が湧き出てくる。
どれだけ潜んでいるんだ……こんなのキリがない!
「
光の玉を大量に出して、発射する。
少しでも抑えて逃げる隙を作るんだ。
「はあああっ!!」
地面より這い出る魔の者たちに降り注ぐ、光の雨。
魔の者たちは苦しんで勢いを落とすけど、完全に止めるまでには至らない。
そんな中、命中精度よりも数と威力に力を割いたせいで一つの光の玉があらぬ方向に飛んでいってしまう。
その光の玉が飛んでいった先には白竜の像があった。
まずい。
そう思った時には手遅れで、光の玉は白竜の像に命中してしまう。
光の玉が当たった白竜の像は壊れるかと思ったけど、なんとその像は光の玉を吸い込んでしまった。そして白竜の像の目に……光が灯った。
「……どうなってるの?」
困惑した次の瞬間、白竜の像の口から眩い閃光が放たれる。
目を開けていたら失明してしまうくらいの凄まじい光だ。その眩しさに僕は咄嗟に手で目を覆う。確認できないけど多分他のみんなも同じことをしているだろう。
少しして光が収まったのをまぶた越しに感じた僕は、手をどけて目を開ける。
するとそこにいた魔の者は全て消え去っていた。
「助かった……の?」
現実感がなくて混乱する。
倒した魔の者の体は溶けて消えてしまうから、床には死体も残っていない。本当に魔の者と戦っていたのかすら分からなくなる。
それにしてもさっきの光は凄かった。
白竜の像にあんな機能が隠されていたなんて。僕のご先祖様は魔の者が再び蘇ることを見越してこの像を置いたのかな。長い時のせいで動かなくなっちゃってたけど、僕の魔法が当たったことでたまたま再起動できたってところかな?
本当に運が良かった。
「とにかくここから出ましょ! またいつあいつらが襲ってくるか分からないわ」
「うん。そうだね……」
クリスに同意して、僕は遺跡から出ようとする。
するとその瞬間、白竜の瞳が再び光る。また光が放たれるのかと思って警戒したけど、そうはならなかった。
「これは……!?」
光ったのは僕の足元だった。
いつのまにか光り輝く魔法陣が足元に出現していた。それの効果のせいか足が全く動かない。クリスが僕に手を伸ばすけど、その手も見えない壁で阻まれてしまう。
「カルスさん……っ!」
声のする方を見ると、なんとセシリアさんの足元にも魔法陣が現れていた。
他のみんなは無事だ。僕とセシリアさん、光魔法を使える二人のみが魔法陣に囚われてしまう。
「カルス! 今助けるから!」
クリスは必死な表情をしながら透明な壁を攻撃し、僕を助けようとしてくれる。
しかしいくら殴ったり斬ったりしても透明な壁はビクともしなかった。
「クリ……ス……」
必死にクリスの方に手を伸ばす。
だけどその手は彼女のもとに届くことなく……次の瞬間、僕の視界は黒で染められた。
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