第22話 魔の者

「なんだこいつ……モンスターか!?」

「でもこんなモンスター、本でも見たことねえぞ!」


 ヴォルガとジャックが謎の化け物を警戒しながら言う。

 確かにこんな生き物、僕も全く知らない。

 黒くぶよぶよした体に、悍ましい口。全身から腐ったような異臭を放ち、体からにじみ出る魔力は身震いするほど恐ろしい。

 まるでこの世界の恨みや憎しみ、そういった負の感情を凝縮して生命を与えたような、そんな雰囲気すら感じる。


 そしてなにより気になるのは、これが口にしたあの言葉。


『ミツケタゾ……アルス……ッ!』


 聞き取りづらい声だったけど、確かにそう言った。

 間違いない。目の前のこれは僕のご先祖様、アルス・レディツヴァイセンを知っているんだ。


「ガアアッ!!」


 黒い化け物が大きく口を開いて襲いかかってくる。

 それの体長は四十センチほどと大きくはない。しかしその口は人間のそれよりずっと大きい。体のほぼ全てが口と言っても過言じゃない大きさだ。あれに噛まれたら大怪我じゃすまないだろう。


「どうやらやる他ないようだな、雷の槍リ・サクス!」


 ヴォルガは素早く雷の槍を生み出すと、それを投擲して黒い化け物の口内に突き刺す。

 槍はそれの体を貫通して、串刺しにする。黒い肉片が辺りに散らばり、異臭が一層強くなる。


「これの正体は気になるが、ひとまず洞窟から出たほうが良さそうだな」

「ああ、これは異常事態だ。一刻も早くここから出よう」


 ヴォルガの言葉に、マクベル先生が同意する。

 白竜のこと、ご先祖様のこと、そしてこの化け物のこと……気になることはたくさんあるけど、確かに今は身の安全を確保するのが最優先だ。この異常事態を早く外に伝えないと。


僕たちは急いで遺跡から出ようとする。だけどその瞬間、再び床に亀裂が走る。


「くっ……!」


 そして次の瞬間、亀裂から黒い化け物たちが大量に湧き出してくる。

 大きいのから小さいの、地を這うものから翼で飛ぶものまで現れる。そのどれもが黒い肉体を持っていて、僕たちを狙い牙を剥いている。


『アルス……ユルサナイ……』

『ヨクモワレラヲ……チノソコニ……』

『イマコソ、フクシュウノトキ……!』


 現れた化け物たちは口々の呪いの言葉を吐く。

 一触即発の空気の中、セシリアさんが僕に話しかけてくる。


「カルスさん、彼らはもしかして……」

「……はい。『魔の者』で間違いないと思います」


 僕の言葉にマクベル先生やジャックたちが顔を曇らせる。

 当然だ、魔の者は遥か昔大陸を蹂躙した伝承上の化け物。そんなものと戦うことになるなんて……。


「ねえカルス。あれが魔の者って話、間違いないの?」

「魔の者は黒い色をした異形の化け物。そのどれもが違う特徴をした体を持っていて、生きている生き物を憎み襲いかかってくるって本で見たことがある。ここまで特徴が一致して別ってことはないと思う」

「なるほど、じゃあ間違いなさそうね」


 クリスはそう言うと腰に差した剣を抜き、構える。

 にらみ合いの中、魔の者の一体がこちらににじり寄り……駆け出す。すると堰を切ったように他の者たちも一斉に駆け出してくる。

 出口は魔の者たちを越えた先にある、戦う以外に道はない。


「みんな! 逃げるのを第一目標に戦おう! 誰か一人でも外に行って助けを呼ぶんだ!」


 僕の言葉にみんなが頷く。

 魔の者を全部倒せるならそれが一番だけど、奴らがどれがけいるか分からない。応援を呼びに行くのが最善手のはずだ。


炎の武器フ・バーフ!!」


 炎を剣に纏わせたクリスが、魔の者の群れに切り込む。

 魔の者たちはその鋭い牙や爪をクリスに突き立てようとするけど、クリスは無駄のない洗練された動きでそれを回避して、魔の者たちを斬り裂いていく。


 やっぱりクリスは凄い。前に会ったときよりずっと強くなってる!


「ちっ……キリがないわね」


 斬られた魔の者たちは大きな傷を負ってもむくりと起き上がり再び襲いかかってくる。普通の生き物なら死んでもおかしくない傷を負っても、だ。

 たとえ体を真っ二つにされても、新しい手や足を生やしたり断面をくっつけて再生したりなど、明らかに普通の生き物からはかけ離れた再生方法で復活する。


 こんな化け物どうやって倒せばいいんだ。そう思っていると、


「来たれ、大いなる光よ。魔を滅し、光溢れる世界を齎して下さい」


 突然聞こえる詠唱。

 そしてそれと同時に後ろから大きな魔力を感じる。

 振り返るとそこには光の粒子に包まれたセシリアさんの姿があった。彼女も上位魔法を使えるようになっていたんだ。


大いなる光の照射ラアズ・ライ・ルクス


 部屋を埋め尽くすほどの眩い光が放たれる。

 その光を浴びた魔の者たちの体は焼け、『ガア……ゥ……!』と苦しみながら次々と倒れていく。明らかに他の魔法よりも効いている。


「白竜伝説では白竜が光の力を持って魔の者を殲滅したと言われています。どうやら光魔法は魔の者によく効くみたいですね」

「なるほど、だったら僕だって。光の剣ラ・ソール!」


 光の剣をいくつも生み出し、魔の者たちに突き刺していく。光の剣が突き刺さった魔の者は苦しみ、体が溶けて消え去っていく。

 よし、これならなんとかなりそうだ!


『ギギィ……マタシテモワレラヲハバムカ……ッ!!』


 一層強くなる魔の者たちの攻撃。

 僕とセシリアさんは光魔法を使い必死にそれらを押さえ込む。


「あと、少し……!」


 徐々に前に出てきた僕たちは、とうとう遺跡の入口近くまでたどり着く。

 遺跡さえ出れば道は広くなる。走って逃げることもできるだろう。僕たちは外に出るため全力で戦う。だけど、


「な……っ!?」


 今までとは比べ物にならないほどの大きさの亀裂が床に入り、そこからとてもつもない大きさの魔の者が姿を現した。


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