第21話 白竜伝説

 暗く、ひんやりとした遺跡の中に入る。

 中は結構広くて、壺とか人の像とかが置かれていた。


「いったいここはなんの遺跡なんでしょうか?」

「この遺跡は外の建物より後、王国が出来た後に建てられたらしい」


 僕の疑問にマクベル先生が答えてくれる。

 それが本当なら遺跡に書いてあったあの名前にも納得がいくね。


 レディヴィア王国の建国者にして初代国王、アルス・レディツヴァイセン。

 僕のご先祖様だ。


 外には彼の名前とともに『我が最大の友、ここに眠る』と書かれていた。ということはこの遺跡はご先祖様の友達のお墓、という線が濃厚だ。

 でもなんでこんな人目のつかない所にお墓を作ったんだろう。まだ分からないことが多いなあ。


「……ここが一番奥だ。あまり物を触るなよ」


 最奥部にたどり着くと、マクベル先生がそう言う。

 その部屋には大きな白い竜の像が置いてあった。今にも動き出しそうな、立派で精密な彫刻だ。

 みんなその像を見て「凄い……」と圧倒されている。

 僕も美術品に詳しいわけじゃないけど、この像が凄いのは分かった。目が離せず、ついつい見入ってしまう。


「……ん?」


 像を見ていた僕はあることに気がつく。

 すると僕の様子を見て察したマクベル先生が話しかけてくる。


「気づいたかカルス」

「あ、はい。この竜、尻尾が二本ありますよね」


 竜には細くて長い尻尾が二本生えていた。

 尻尾が二本生えている竜、確かに珍しいけど、この王国ではそれはもっと深い意味を持つ。


「調査の結果、この像は『双尾の白竜』を模した物で間違いないそうだ」

「やっぱり……!」


 かつてこの地で魔の者を倒したご先祖様。

 その相方にして最強の仲間、それが『双尾の白竜』だ。

 二本の長い尻尾を持ち、高速で空を駆け、口からは光のブレスを吐いたというその竜の伝説は今も語り継がれていて、王国に住む子どもなら誰もが一度は背中に乗ることを憧れる存在だ。


 僕のご先祖アルス様は槍を携え、その竜の背に乗って戦い魔の者に勝利した。

 その功績を称え、この国の紋章には二本の尻尾を持つ竜の姿が描かれている。


「双尾の白竜は謎の多い存在だ。文献もあまり残されていない。この像は白竜のことを知る大きな手がかりになるだろうな。マジで貴重な物だからお前ら触るなよ」


 マクベル先生は特にジャックの方を向いてそう言う。

 僕はしばらくその像を眺めた後、視線を下げる。するとセシリアさんが両手を組んで祈っていることに気がつく。

 祈るその姿はとても神聖で……まるで絵画のように感じた。

 彼女はしばらくそうしていた後、組んでいた手を解き僕の方を見る。どうやら僕が見ていたことに気がついていたみたいだ。

 目を布で覆っているのにどうして分かるんだろう。謎だ。


「白竜伝説は聖王国でもよく知られているお話です。私も小さい頃読んでわくわくしました」

「そうなんですね。確かに白竜は光を操ったという伝説もありますから聖王国で有名なのもうなずけますね」


 セシリアさんの故郷、聖王国リリニアーナは光魔法を神聖視している国だ。

 白竜のことが有名なのも当然だ。


「それにしてもいったいなぜこの遺跡は地中深くにあるのでしょうか。白竜のことを祀りたいのであれば、人目のつくところの方がよさそうですが……」

「そうですね。僕もそれを不思議に思ってました」


 この遺跡に書かれていた文字。


『我が最大の友、ここに眠る』。


 その友がこの白竜なのは間違いないだろう。

 しかしなんでその最大の友をこんなところに隠していたんだろう。


 静かに眠らせてあげたかった? いや、それなら王城の中にでも建てるべきだ。

 この遺跡のことはたぶん国王である父上も知らない。本当に秘密裏に建てられた物だ。

 いったいなんで。考えても答えは出ない。


「……どうやらこれ以上見るものはなさそうだな」


 みんながしばらく黙っていると、ヴォルガがそう呟く。

 確かにここにある物はだいたい見た。あまり長居していると外も暗くなっちゃうから出てもいいかもね。


「じゃあ外に出るとしようか。忘れ物がないように気をつけろよ」


 マクベル先生がそう言って遺跡の出口に向かう。

 僕たちもその後を続いて外に出ようとしたその瞬間……突然遺跡の床と壁にビシシッ!! と亀裂が入る。


「……ッ!!」


 咄嗟に僕らは一箇所に固まり、身を寄せ合う。

 僕はあたりの様子を観察しながら、魔法を使う準備をする。光魔法は防御に優れる魔法だ、もし崩落したら僕とセシリアさんの力が役に立つ。


「セレナ、いつでもいける?」

「当然。いつでもいけるわ」


 相棒のセレナが自信満々に答える。

 よし、なんでもこい。そう思っていると、亀裂がどんどん広がっていき……そのから黒いドロドロとしたなにかが吹き出してくる。


「なんだあれは……!?」


 その黒いものはアメーバのようにぐにょぐにょと気持ち悪く動き、完全に亀裂から出てくる。

 そしてその姿を変えていき、手に足、口を作ってしまう。

丸い体に細い手と足、それに気味の悪い舌と歯が除く口、見るからにやばいモンスターだ。

それを見たクリスは「ひ……っ」と小さく悲鳴を上げる。


「な、なによアレ! 気持ち悪い!」

「落ち着いてクリス。アレはなんかとても……危険な感じがする」


 その黒いモンスター? は僕たちの方をジッと向いていたと思うと、にちゃあ……と醜悪な笑みを浮かべる。


『……ツケタ』


 なんとそれは言葉を発した。

 僕は耳を澄まし、その言葉を必死に聞き取ろうとする。

 するとそれは……想像もしていなかった言葉を口にした。


『ミツケタゾ……アルス……ッ!』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『白竜伝説』

空を舞う白磁の竜。

背に乗せるは白の英雄。声高らかに戦場を駆け抜けん。

手にするは双尾の槍、野を裂きて百年の戦を終わりへと導く。

その武勇、比肩するものなし。魔の者敵わず、ことごとく滅ぼされん。


日は昇り、落ちることなし。白銀の夜明け、太平を照らす。

白竜伝説の始まりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る