第20話 黄金都市

 大穴の中は、外から見た通りまっくらだった。

 マクベル先生が魔石灯が中に入ったカンテラで地面を照らしてくれているけど、その明かりはちょっと心もとない。

 足元はゴツゴツしてて危ないし、もうちょっと明るくしておこう。


光在れライ・ロ


 少し大きめの光の玉を出して、周囲を明るくする。これなら躓く心配もなさそうだ。

 僕が魔法を使ったのを見て、隣を歩くクリスが話しかけてくる。


「光魔法はこういう時に便利ね。羨ましいわ」

「ありがとう。こういう時は任せてよ」


 クリスの使う炎魔法も明かりにはなるけど、狭い場所や森の中だと危険が伴う。

 火事になる恐れがあるし、密閉した空間だと酸素が薄くなってしまう。その点、光魔法は安全だ。むしろ光に近づくと心が落ち着くくらいだ。


「お、なんか見えてきたぜ」


 ジャックが声を上げる。

 本当だ、建物の残骸みたいなものが大穴の中に現れ始めた。

昔は穴の中で暮らしていたのかな? それとも住んでいた場所が土砂崩れとかで埋まってしまったんだろうか。興味深いね。


「マクベル先生。この建物が何かは分かったんですか?」

「まあだいたいな。この建物はレディヴィア王国が建国されるより前のものらしい」

「そんなに古いものだったんですね……!」


 レディヴィア王国が建国されたのは確か神亡暦980年のことだ。

 ということは少なくとも五百年以上前の建物ということになるね。


「王国が出来るより前、この地には黄金都市ジルパンという国家があった。かつて栄華を極めたその国だが、突如現れた化け物によって滅んだと言われている。お前たちも知っているな」


 マクベル先生の言葉に僕たちは頷く。


「『魔の者』ですよね? 何度も絵本で見たので知っています」


 どこからともなく現れ、大きな都市を一瞬で滅ぼしたとされる黒い化け物、それが『魔の者』だ。詳細な資料は一切残ってなくて、どんな生態をしているのか、そもそも生物なのか、詳しいことはなにも分からない。


 分かっていることは二つだけ。

 どこからともなく現れ、ジルパンを滅ぼしたということ。

 そして僕のご先祖様、アルス・レディツバイセンの手によって滅ぼされたということだけだ。


「この建物群は魔の者の手によって壊された物ということになる。そのような物はほぼ残っていないからな、貴重な歴史資料になる」

「確かにそうですね……」


 風化した建物には、いくつもの傷がついている。

 獣の爪で切られたみたいな跡だ。きっと魔の者の仕業なんだろう。


「ねえセレナ。セレナは魔の者を見たことないの?」

「ないわ。私はずっと人のいないところでのんびり暮らしてたもの」


 興味なさげにセレナは答える。かなり昔から生きているはずのセレナだけど、昔のことは意外と知らない。そもそも過去に他の人間に憑いたことがないらしい。

 彼女の初めての人間になれたというのは……その、悪い気はしない。


「お、見えてきたぞ。あそこが最奥部だ」


 マクベル先生の言葉につられ、僕は正面を見る。

 そこにあったのは石でできた大きな門。もともとは石の扉で塞がれていたみたいだけど、それは崩れてしまって中に入れるようになっている。


「先生、ここはどういう場所なんですか?」

「それはまだ調査中だ。ただ危険はないということだから安心してくれ」


 みんなはぞろぞろとその遺跡の中に入っていく。

 僕もそれに続こうとして……あることに気がつく。


「あれって……」


 それは門の上にに刻まれた文字。

 風化してかすれてしまっているけど、ぎりぎり読めそうだ。


「あの形、たぶん古代文字だよね? じゃああれを使えば読めるかもしれないね」


 僕はゴードンさんに貰った小鞄ポーチから、これまたゴードンさんから貰った『眼鏡』を取り出す。

 この眼鏡には翻訳機能がついている。確か古代文字に対応していたはずだ。

 さっそく僕は眼鏡を付けて、文字を確認する。


「なになに……」


 ピピピ、と音を出しながら眼鏡は文字を認識する。

 そしてその数秒後、そこに書かれていた文字を僕のよく知る文字に変換してくれる。


「えっと『我が最大の友、ここに眠る』……? いったいなんのことだろう」


 もしかしてこの遺跡は誰かのお墓なのかな。

 そんなことを考えていると、再び眼鏡がピピピピと鳴り出す。


「へ?」


 故障かとちょっと焦ったけど、違う。

 眼鏡はさっき読み込んだ文字の隣に反応している。


「なにか書いてある……?」


 眼鏡が反応しているところをようく見てみると、小さく文字が書かれている。

 暗いせいで全く気が付かなかった。高いところにあるし、もしかしたら調査した人たちもまだ気がついてないかもしれないね。


 僕は眼鏡の横にあるダイアルを回してズーム機能を使う。

 すると視界がその文字列にグッと寄ってくれる。便利な機能だ。


「これも古代文字だよね。なんて書いてあるんだろ」


 待つこと数秒。眼鏡が翻訳を終えてその結果を映し出してくれる。

 それを見た僕は……驚いて声を失う。


「『アルス・レディツバイセン』……! なんでご先祖様の名前がここに……!?」


 謎の遺跡に残された、ご先祖様の名前。

 僕はまだこの遺跡に残された秘密を、何も知らない。


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こちらも面白いので、ぜひ読んで下さい!

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