第19話 探検開始

 大穴の中に入るのは僕とクリス、ジャックにヴォルガ、そしてセシリアさんというメンバーになった。


 サリアさんも誘ったんだけど、「外に出る体力は使い果たした」と断られてしまった。

 だけど穴の中のことに興味はあるみたいで、中の様子を詳しく教えるようにと命令ミッションを受けた。

 サリアさんにはお世話になっているし、キチンとこなさなきゃ。


 ――――当日。

 時刻はお昼ごろ。授業は午前中で終わりの日だったから探索に時間をたっぷり取れる。


「よし。全員揃ったな」


 引率するために来てくれたマクベル先生が僕たちを見て言う。

 天気は晴れ。横穴に入るのだから意味はないけど、晴れていると気分も晴れる。絶好の探検日和だ。


「セシリア様、やはり誰か付き添いを付けた方が……」


 見ればセシリアさんのもとに、彼女のお付きをしている生徒が三人集まっていた。

 今回の探検は人数制限がある、彼らは入ることが出来ないんだ。

 安全が確認されているけど不安なんだろうね。


「私は大丈夫です。すぐに戻りますからここで待っていてもらえないでしょうか?」

「ですが……」


 お付きの生徒は食い下がる。

 それほどまでにセシリアさんは慕われているんだ。


「あの、セシリアさん。僕から一人増やせるようにマクベル先生に頼みましょうか?」


 そう提案すると、お付きの生徒たちは「でかした!」とばかりに首を縦にぶんぶんと振る。

 事情を話せば先生も分かってくれるはず。さっそく提案に行こうとするけど、セシリアさんはそれを引き止める。


「お気持ちは嬉しいですが、その必要はありません。私の我儘で規則ルールを歪めるわけには行きません。貴方たちもいい加減にしませんと……怒りますよ?」


 笑顔でそう言い放つセシリアさん。怒った顔で言われるよりも怖い。

 お付きの人生徒たちも同じ恐怖を感じ取ったのか、しゅんとしながら引き下がる。

 どうやら話はついたみたいだね。


「しっかし本当に穴の中は安全なのかね。俺ぁ嫌な予感がするぜ」

「なんだ、入る前から怖気ついているのかジャック。帰ってもいいんだぞ?」

「う、うっせえ! 誰が帰るか!」


 少し離れたところでジャックとヴォルガが言い合いしている。

 二人もずいぶん仲良くなったなあ。


 と、ほのぼのしていると僕の横にクリスがやって来る。

 僕を見つめるその瞳は、いつも通り自信に満ち溢れている。居てくれるだけで心強い、クリスはそんな存在だ。


「どうしたのカルス、やけに静かじゃない? もしかしてビビってるの?」

「違うよクリス。僕はワクワクしてるんだ」


 今まで僕はずっと屋敷の中で生活をしていた。

 そこでの暮らしは幸せではあったけど、刺激はなかった。


「知らない場所、入ったことない建物、初めて会う人に初めて触れる物。外に出てから僕は驚きっぱなしだ。今回の探検もきっと驚きに溢れるものになる。そう思うとワクワクしちゃんだ」

「ふうん……」


 そう言ってクリスは優しい笑みを僕に向ける。


「な、なに? 僕なんか変なこと言ったかな?」

「別に。ビビったなんて情けないこと言ったらお尻を蹴っ飛ばしてあげようと思ってたけど、それはしなくてよさそうね」


 そう言ってクリスは僕から離れる。

 ううん……女の子はなにを考えているのか分からない。シリウス兄さんの凄さを痛感する毎日だ。


「準備はいいな? それじゃあ出発するぞ」


 マクベル先生を先頭に、僕たちは大穴の中に足を踏み入れる。

 光ひとつない、ぽっかりと空いたその穴は、なんだか大きな口の様にも見えて……僕は少しだけ背中にぞくりとした寒気を感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る