第10話 自由の教室
星見の教室に行った日の放課後。
僕は時計塔地下に足を運び、月の魔法使いルナさんのもとを訪れていた。
そして星見の教室の室長、イルさんから貰った月のメダルをルナさんに渡し、今日聞いた話を聞いてもらった。
全ての話を聞いたルナさんは、目を閉じてしばらく黙ったあと、ぽつりと呟く。
「……なるほど。月の意志はまだ残っていたか」
そう言ったルナさんの目は、今まで見たことのない優しい目をしていた。
月は彼女にとって寄る辺だ。それを信仰する人がまだ残っているというのは救いになるんだろう。この話をしにきてよかった。
「ありがとう、私にこの話を教えてくれて」
「いいえ。喜んでいただけて僕も嬉しいです」
「それで悪いのだが……このメダルをいただいても構わないかな? 現代に残った信仰心のかけら、なんとも離し難い」
ルナさんは指でメダルを転がしながら尋ねてくる。
どうやらよっぽど気に入ったみたいだ。
「僕は構いませんよ。でもそれがないと『青光教』のシンボルが描かれているお店に行ってもお話を聞けないんじゃないですか?」
「それだったら問題ないだろう。以前君に渡した『
「分かりました。その時はまた来ますね」
そう約束した僕は、地下室を後にするのだった。
◇ ◇ ◇
次の日、僕が向かったのは『
ここだけは他の教室と違って名前でどんなことをやるのかよく分からない。マクベル先生に聞いてみたけど「気になるなら行ってみるといい」としか言われなかった。
「失礼します」
ドアをノックし、中に入る。
そこは広い教室だった。
床や机に本や魔道具、杖や武器のような物が転がっている。いったい何をしているところなんだろう。
教室に物は多いけど、人は少なかった。
ていうか一人しかいない。しかもその人物は教室の真ん中の椅子に座り、顔の上に開いた本を載せて昼寝をしている。
確かにここは自由の教室だけど自由過ぎない?
「あの」
「ふごっ」
話しかけると汚い声を出しながらその人は目を覚ます。
茶色いモサモサした髪が特徴的な男の人だ。その人は僕を見ると軽く身だしなみを整え、何もなかったかのように話しかけてくる。
「おや、見学かな? ようこそ『自由の教室』へ。僕は三年Aクラスのフロイト。一応この教室の室長をしている。みんなからはフリーと呼ばれているから君も気軽に『フリー先輩』と呼んでくれたまえ」
「分かりました。僕は一年Aクラスのカルスと申します。今日は見学に来ました、よろしくお願いします」
挨拶を交わすとフロイトさんも「ああ、よろしく」と笑みを浮かべる。
つかみどころのない、不思議な感じのする人だ。今までにあまり会ったことのあるタイプじゃない。
「フリーさん、実は僕この教室が何をするところなのかまだ知らなくて……」
「ほう、それなのに来るとは中々の好奇心旺盛のようだね。いいだろう、まずはそこから説明しようじゃあないか」
フリー先輩は立ち上がると机の上に置いてある物を色々手に取りながら説明を始める。
「この学園にはここを除いて六つの教室がある。錬金、薬草、星見、魔導、戦士、創造……どれも素晴らしいものだ。こんなに色々なことを学べる学園はそうないだろう」
「そうですね。僕もそう思います」
「だが逆に、それ以外のことを学びたくて入学した生徒は、どうすればいい?」
「……それは」
フリー先輩の問いに、言葉が詰まる。
確かに教室制度の完成度は高い。多くの生徒が救われるだろう。
でもそれ以外の生徒は何を頼りにして定期審査を合格すればいいんだろう。興味のない教室に入り、なんとかするしかないのだろうか。
「教室制度には欠陥がある。まあ完璧な制度なんて人に作れるわけもないのだけれど」
はは、とフリー先輩は笑う。
「魔剣を作りたくて魔法を学びにきた生徒、魔獣を研究したい生徒、過去に滅んだ文明を調べたい生徒……色々な変わった目標を持った生徒が魔法学園に来ている。この教室はそんな『優秀なはみ出し者』の受け皿、それがここ『自由の教室』なんだ」
そこまで一気に喋ったフリー先輩は、僕のことをじっと見つめ、尋ねてくる。
「さて、君は何を知りたい?」
その問いに対する僕の答えは、とっくに決まっていた。
「僕は呪いが知りたいです」
「
こうして僕は『自由の教室』に所属することになったのだった。
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