第8話 星見の教室
錬金の教室に行った日の翌日は、ジャックと一緒に薬草の教室に行った。
そこでは多くの生徒たちが薬の研究をしていて、部屋には草の匂いが充満していた。
「すごい匂いだね。くらくらしてきた」
「そうか? 俺はもう慣れたぞ」
実家が農家だからかジャックはこの匂いにすぐ順応していた。
この教室の先輩ともすぐに仲良くなってたし、ジャックはこの教室と相性がよさそうだ。
「ここに所属するつもりなの?」
「まあ他に行きたいところもないし、そうするかもな。カルスはどうするんだ? 昨日は錬金の教室に行ったんだろ?」
「まだ悩んでるんだ。錬金も面白そうだったけど他もまだ見てみたい」
「そうか。決めるのに期限があるわけじゃないからゆっくり探せばいんじゃないか?」
「うん。じっくり探してみるよ」
薬草の教室も面白かったけど、ひとまずここに入るのも見送った。
僕の呪いを解く手がかりはなさそうだしね。
さらに次の日に向かったのは『魔導の教室』。
その名の通り魔法を極めようとする教室だ。純粋に魔法の腕を磨きたい人や、魔法の秘密を解き明かしたい人、魔術を研究する人などが在籍していた。
ここも面白そうとは感じたけど、正直ここで学べることは師匠に全て聞けそうでもある。せっかく魔法学園に来たんだから、今まで学べなかったことを学びたいなあ。
「えーっと……ここ、かな?」
そのまた翌日、僕が向かったのは魔法学園の校舎でもっとも高いところにある教室。
名前は『星見の教室』。
その名の通り星を観測する人が集まる教室だ。
教室に足を踏み入れた僕は、中の人に自分の名前と来た目的を伝える。
すると奥の方から黒いローブに身を包んだ女性が現れる。
艶やかな黒い髪は目にかかっているけど、その奥で僕をじっと見ている気がする。
「初めましてカルスさん。ここ『星見の教室』の室長、イル=デネビアと申します。よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
イルさんは不思議な雰囲気を持っているミステリアスな人だった。
そもそもこの教室自体、不思議な空気が満ちていると感じる。
「あなたはここに満ちる魔力を感じ取っているみたいですね」
「え、あ、はい。不思議な感じはしてます」
考えていることを言い当てられてビクッとする。
心を見透かされているみたいだ。
「あなたは『星見』をどこまでご存知ですか?」
「えーと……星を見て色々なことを占うってことくらいしか知りません」
「なるほど。分かりました」
イルさんは大きな紙を持ってくると机の上に広げる。
そこには夜に輝く星々が描かれていた。すごい精密な絵だ、これだけでこの教室がどれだけ星に敬意を持っているかが分かる。
「あなたの認識は間違っていません。星見を生業とする者『
「すごい……そんなことが可能なんですね」
星を見るだけでそんなことが出来るなんて驚きだ。
興味深く聞く僕に、イルさんはもっと詳しく教えてくれる。
「星と星を繋ぎ浮かび上がる星座。これは世界でもっとも大きな『魔法陣』と捉えることが出来ます。巨大な力は世界に影響を及ぼします。星座を読み解けばこの先何が起こるのかをある程度予測することが出来るのです」
「星座が魔法陣、ですか。すごい規模の話ですね」
昼も夜も、変わらず星は空にある。
世界は星から逃れることは出来ないんだ。
一気に星に興味が湧いてきたぞ。
「イルさんも占星術師を目指しているのですか?」
「はい、そうです。私は生まれつき目が良く、星を良く見ることが出来ます。この力を人のために活かしたい。そう考えております」
そう語るイルさんは真剣で、僕はとてもかっこいいなと思った。
夢、かあ。呪いがなかったら僕は何になりたかったんだろう。もし呪いが解けたら真剣に考えてみたいな。
「じゃあイルさんも未来のことが分かるんですね」
「……そうであれば、良かったのですが」
イルさんは少し困った顔をする。
もしかして何かまずい事を聞いちゃったかな?
「あの、何か失礼なことを聞いてしまいましたか? もしそうでしたら謝ります」
「いえ、違います。そうじゃないんです」
イルさんは首をふるふると横に振る。
「まだ教室に入ってないあなたに言うことではないのですが……今、星の動きが乱れているのです。そのせいで星を詠むことが困難になっています。私たちだけでなく高名な占星術師の方達も混乱しているそうです」
「星の動きが乱れることなんてあるんですね。何が原因かは分かっているんですか?」
「はい、おそらくですが……」
星の絵が描かれた紙の上を、イルさんの細い指が滑る。
そしてある一箇所で、止まる。
その場所を見た僕は驚き、息を飲む。
「空を欠く暗黒、『
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