第7話 錬金の教室

 授業と授業の合間の休憩時間。

 僕はクリスたちと『教室』について話していた。


「クリスはどの教室に行くの? やっぱり『戦士の教室』?」

「そうね。なにかを調べたりっていうのは性に合わないし、手っ取り早くそこで成果を上げようと思っているわ」


 戦士の教室の生徒は、主に剣術大会などに参加して成果を出している。

 教室に入ればどこでどんな大会が行われているか分かるし、手合わせする相手にも困らない。騎士を目指すクリスにはうってつけの教室だ。


「ヴォルガも戦士にするの?」

「そのつもりではある。まあ他の教室ところも見てみようとは思っているがな」

「ふうん。そうなんだ」


 教室は全部で七個もある。

 体験入室も出来るみたいだし、色々見てから決めるのも大事だ。


「ジャックはどうするの?」

「んー、俺は別にやりたいことがあるわけじゃないからなあ」


 困った様子でジャックは言う。

 確かにジャックの好きな分野は僕もピンとこない。うーん、何かあったかなあ。


「ジャックの好きなものって言ったら人の噂話と食べることくらいしか思いつかないや」

「……悪意がないのは分かってるが俺も傷つくんだぞ?」


 よく分からないけど傷つけてしまったみたいだ。

 反省反省。


「ひとまず俺は『薬草の教室』にでも行ってみようかと思ってる」

「それはいいかもね。ジャックは元々『木属性』の魔法使い、薬草の教室とは相性が良いだろうからね」

「だろ?」


 ジャックは木、土、水の三属性を使える魔法使いだ。

 でもその内の土と水は弟と妹から受け継いだ力だとこの前分かった。つまり本来ジャックは木の魔法使いなんだ。


 だから他の二属性より木の魔法の方が精度が高い。


「で、だ。カルスはどこに行くつもりなんだ?」

「うーん。そうだなあ……」


 先生が挙げた教室を頭に思い浮かべる。


「錬金の教室は一度覗いてみたいよね。薬草と魔導も気になる。星見の教室も話を聞きに行きたいし……創造も楽しそうだ。自由の教室が何やってるのかも確認したいね」

「ほぼ全部じゃねえか」

「戦士は来ないのね……」


 ジャックは呆れた顔をして、クリスはしゅんと落ち込んだ顔をする。

 クリスには申し訳ないけど、戦士の優先度はどうしても低くなってしまう。

 強さよりも今は知識が欲しい。どの知識が呪いを解くのに役立つか分からないからね。


◇ ◇ ◇


 教室制度を知らされてから、午後の二時限あった授業は一つに減り、残りの時間はそれぞれの『教室』用の時間に割り振られた。


 とはいっても教室に入るのは強制ではない。

 入らない生徒はその空いた時間は家に帰ってしまっても構わないみたいだ。


 でも教室に入らないということは定期審査を一人で突破しなきゃいけないことになる。自由時間を無為に過ごす余裕はないということだ。


 ちなみにBクラスの生徒は、二回連続で定期審査を高評価で通過した場合Aクラスに上がれるらしい。

 どれくらいの成果を出せば高評価を貰えるのかは分からないけど、結構大変そうだ。


「まずは……錬金の教室かな」


 僕は錬金の教室を皮切りに、色々な教室へ行ってみた。


「いらっしゃい! 君はカルス君だね? どうぞゆっくり見ていってくれたまえ!」



 教室ではすごいもてなしてもらった。

 Aクラスの生徒は教室同士で奪い合いになっているみたいだ。僕は騒ぎを起こしたせいで名前を無駄に知られてしまっているから、教室としても知名度のある生徒が欲しいんだろうね。


「私は三年のジェイス=ケルミスト。ここ『錬金の教室』の室長を務めている。なんでも質問してくれたまえ」

「ありがとうございます。えっとすごい初歩的な質問なんですけど、錬金ってどのようなことをするんですか?」


 金属と魔法で何かする程度の知識しかなかった僕は、そう質問する。

 少し調べてから聞くべきだったかと思ったけど、室長のジェイスさんは快く答えてくれる。


「この世界には常識外れの力を持つ鉱物が複数ある。オリハルコンや玉鋼、緋日色金ヒヒイロカネやアポイタカラがそれに当たる。錬金術師たちの目標はそれらの鉱物を自分の手で作り出すこと。この教室でも同じようなことをしているんだ」

「なるほど……それは面白そうですね」

「だろう?」


 ジェイスさんは屈託のない笑みを浮かべる。

 本当にこの人は錬金が好きでやっているんだね。


「中には未知の金属を作ろうとしたり、最強の剣を作ろうとしている者もいる。言ってしまえば魔法と金属で何かしたい人はこの教室に入る。錬金の実験は楽しいぞ。ぜひ君もやってみるといい」

「はい。ぜひ体験させてください」


 この日はジェイスさんに連れられて、他の人の実験を色々見させてもらった。

 そのどれもが刺激的で、僕は楽しい時間を過ごすことが出来た。

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