第3話 次元層
サリアさんに連れられた僕は、クリスとジャック、そして途中で偶然出会ったヴォルガと共に時計塔を訪れた。
……少し来ない間にまた散らかってる。
サリアさんは研究に没頭するとすぐに部屋を汚くしてしまうんだよなあ。後で掃除してあげないと。
「ふふふ。よく来てくれたね諸君」
そんな僕の思いを余所に、サリアさんは上機嫌でなにやら大きな物をえいしょえいしょと押しながら持ってくる。
なんだろうこれ? 四角形のそれの表面には水晶とがボタンとか魔法陣とか色々な物がある。見るからに怪しい。
クリスたちも変なものを見る目をしている。
「さて、これを起動する前にまず聞いておこう。君たちは『精霊』の存在を信じているかね?」
サリアさんの質問にクリスとジャックは「精霊?」と首を傾げる。精霊はお伽噺に出てくるような存在、混乱して当然だ。
二人が質問の意図をはかりかねているとヴォルガが口を開く。
「この大陸にはかつて神が存在していたとされる痕跡が多数残っている。神がいるなら精霊もいるんじゃないかと俺は思っている」
「ふむ。面白い推論だね。精霊は神の下位存在として語られることが多い、そう考えるのは論理的だ」
「どうも」
ヴォルガはそう答えるとクリスたちを見て「ふっ」と鼻で笑う。もちろんそれを見たクリスとジャックはぎゃあぎゃあ文句を言う。みんな仲良くなったなあ。
「はいはい。口喧嘩はそれくらいにして話を進めさせてもらうよ」
パンパンと手を叩いてサリアさんがそう言うと、一旦みんな口をつぐみ耳を傾けた。
「まず前提として精霊は
そう言ってサリアさんは僕のことを指差す。
「あー……事前に許可をとっておくべきではあったが……あの話はしていいかな?」
ばつが悪そうにサリアさんが尋ねてくる。
あれ、とは僕が精霊を見ることが出来るという話だ。僕は学園ではサリアさんにしかその話をしていない。この話は広まってしまうと色々と面倒なことになってしまうからね。
そのスタンスは今も変わっていない。でも、
「構いませんよ。僕は友人を信頼してますから」
「そうかい。それは助かった」
サリアさんはそう言って笑みを浮かべると、精霊のことを三人に説明する。
魔法を使うには精霊の力が必要で、みんなに憑いているということ。僕の目は特別で精霊が見えるということ。サリアさんは精霊の研究をしているということ。
そして魔術協会はそれを知っていて、あえて黙っているということ。なのでこの件は公表出来ないということも伝えた。
全てを聞いたジャックは頭から煙を出していた。
「む、難しい話だな。頭がパンクしそうだぜ……」
「あらそう? 私は理解できたわよ。カルスは凄いって話よね?」
「それだいぶ端折ってねえか?」
ジャックとクリスも細かいとこはとにかく、理解はしてくれたみたいだ。
一方ヴォルガはしばらく考え込んだあと、サリアさんに尋ねる。
「……話は理解できた。カルスにその能力があるということも信じてもいい。それでその怪しい機械のような物はなんなんだ?」
その質問にサリアさんは待ってましたとばかりに答える。
「私は常々考えていた。なぜ人間は精霊を知覚出来ないのかということをね。後輩くんの協力のもと、観測を続けた私はあることに気づいたのだよ」
確かになにかよく分からない実験を手伝った。
精霊がいる場所を指さしてその空間を怪しげな装置で観測したりとか。あれの成果が見れるんだ。
「私は最初精霊と人間は別々の空間にいると考えていた。しかし後輩くんの協力でそれが違うのだと判明した。精霊は私達と同じ物を見聞きすることが出来る、それはつまり彼らは我らと
「確かに……」
セレナと触れ合うことは出来ないけど、会話も出来るし、お互いの顔を見ることも出来る。
ということは僕たちの生きている世界は限りなく
「観測した結果、私達と彼らが存在する世界の層……私は『次元層』と呼ぶそれのズレは27.296%。存在次元域を拡張しこのズレを小さくすることが出来れば私達は精霊を見て、触れることが出来るのだよ!」
興奮した様子でサリアさんは力説する。
……凄い話だ。この人は頭脳だけで人間と精霊の間にある境界を取り払おうとしてるんだ。間違いなくこの場所は現代科学の最先端にある。
「私が作ったこの魔道具『次元域拡張装置』、通称『
得意げに解説してくれるサリアさん。
僕とヴォルガはなんとか話についていけていた。でもクリスとジャックは途中から脱落して頭をショートさせていた。
このまま話を進めたら爆発しちゃいそうだ。
「要するにあの装置を使えば、精霊を見たり触ったり出来るってことだよ」
「ああなるほど。不思議魔道具ってことね」
「そういうことか。まあ俺は分かってたけどな」
絶対よくは分かってないけど、ひとまず頭は爆発しなさそうだね。
サリアさんもそれを分かったのか話を進める。
「さて、みな理解していただいたところで……早速『
僕たちは顔を見合わせると、迷うことなく頷く。
この研究は人間と精霊の距離を近づける偉大なものだ。それの役に立てるなら魔力くらいいくらでも貸せる。
サリアさんの指示に従い、僕たちは鎮座する魔道具に手を置くのだった。
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