第7章 拡張次元と謎の大穴
第1話 異変
――――それはとある日の夜の出来事であった。
時計塔の引きこもりこと、サリア=ルルミットはいつもの様に時計塔に引きこもり研究に没頭していた。
通常であれば生徒は夜の校舎に残ることを禁止されている。しかし彼女は時計塔の中に限り、残るのを許可……いや、黙認されていた。
それをいいことに彼女は時計塔の中で生活していた。
もっとも子どもの体になった彼女は、九時には眠くなってしまうのだが。
「……よし、これで完成。後は動力の確保だけど、それは彼らに頑張ってもらうとしよう」
何やら怪しげな機械を前にして、一息つくサリア。
ここ最近の彼女は、この機械を作るのに全てのリソースを費やしていた。その甲斐あってこの発明品は、いまだこの世界に前例のない驚きの物に仕上がっていた。
「くく、これを見た後輩くんたちの驚きの顔が目に浮かぶねえ」
一人ほくそ笑むサリア。
人付き合いなど面倒臭いだけ。そう考えていた彼女だが、カルスたちと出会ったことでその認識が変わりつつあった。
もっとも本人はそれを認めはしないだろうが。
「ふあ……。キリもいいしそろそろ寝るとしようか。最終調整は明日やればいい話だからね」
時刻は九時を回っている。普段ならば寝息を立てている時間だ。
くたびれた白衣を脱ぎ捨て、ゆったりとした寝巻きに着替えた彼女は、大きめのソファに体を預ける。
そして心地より疲労感に身を委ねながら意識を手放そうとしたその瞬間、突如鳴り響いた爆音により意識を強制的に覚醒させられた。
「に゛ゃあ!? いったいなんだ!?」
ソファから転げ落ちながらサリアは叫ぶ。
余程びっくりしたのか彼女の目には涙が浮かんでいる。
「かなり近くから聞こえたが……いったい何の音だ……?」
音のした方の窓から身を乗り出すサリア。
そこにあった光景は、彼女が驚愕するものだった。
「なんだいこれは……!」
学園の一角、何もない壁が大きく崩れ巨大な『穴』がぽっこりと空いていた。
周囲に人の気配はない。
ひとりでに空いたその穴は、まるで中に人を誘っているかのような不思議な雰囲気を漂わせている。その雰囲気に飲まれたサリアの心にも、その穴の中に入りたいという欲求が湧いてしまう。
「……おっと、いけないいけない。好奇心は竜をも殺す。まずはアレを調べる所から始めないとねえ」
心底楽しそうに笑ったサリアは、頭の中に仮説をいくつも立てながら再び横になる。
彼女が寝息を立てたのは、六つ目の仮説の脳内検証を始めてからであった。
◇ ◇ ◇
学園内で爆発事件が起きた。
その情報は瞬く間に広がって、僕の耳にもすぐに入った。
通学中、なんかやけに騒がしいなあと思ったけど、まさか夜の内にそんな事件が起きていたなんて全く気がつかなったよ。
「クリスは知ってたの?」
「ええ。爆発音は寮の方まで聞こえたからね。結構な騒ぎになったわ」
爆発音を聞いた寮生の一人が、音がした場所に行ってしまったらしい。
そこで見つけたのは大きな穴。
幸いその生徒は無事に帰ってきたみたいだ、音の正体がモンスターとかじゃなくて良かった。
「謎の大きな穴かあ……不謹慎かもしれないけど、やっぱりわくわくしちゃうね」
いったい穴の奥には何があるんだろう。
知的好奇心がくすぐられちゃうね。
「だったら放課後見に行かない? 中に入るのは禁止されてるけど、遠目に見るくらいだったら出来るみたいよ?」
「いいね! 楽しみだなあ」
クリスと約束をした僕は、胸を高鳴らしながら授業が終わるのを待つのだった。
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