第15話 おじさん

「~~♪」


 上機嫌に鼻歌を歌いながら歩く一人の生徒がいた。

 揺れる若草色の髪、幼さを残しながらもどこか色気を感じる整った顔、そしてスラリと引しまった肢体。同性であっても見とれてしまう者がいるのも頷ける。


 彼女の名前はラティナ・リリエノーラ。

 モデル業をこなしながら魔法学園に通う生徒で、ちょっとした有名人だ。


 日課のショッピングを終え、大量の荷物を魔法で浮かせながら運ぶ彼女は、自宅の扉を開き中に入る。


「ただいまー」


 しんと静まった家の中でそういうと、浮かせた荷物を端っこに置く。中に入っているのは全て洋服だ。現代では服の流行は日毎に変わっていく、好きなことには勉強熱心な彼女は頻繁に服を買い勉強を怠らなかった。


 もっともこんなことが出来るのは、実家が裕福だからではあるが……


「……あれ? 誰もいないと思ってたのにいたんだ」


 リビングに足を踏み入れたラティナは、ソファに腰掛ける人物を見てそう言った。


 そこにいたのはサラサラの緑色の髪が特徴的な美少年がいた。

 歳はラティナより少し下に見える。彼はラティナの後ろに見える大量の荷物を見ると、呆れたように口を開く。


「またそんなに買ったのか。この前もたくさん買っていたじゃないか」

「流行は毎日変わっているの。これでもだいぶセーブしたんだから」


 悪びれずそう言う彼女に、少年はやれやれを首を振る。

 ラティナは座る少年の横に腰掛けると、甘えた声を出しながら寄りかかる。


「ねえおじさん? 私まだ欲しい物があって……」

「分かったから気持ち悪い声を出すな強欲娘め。本当にお前はあの人に性格は似てないな。顔は似ているというのに……」


 少年は嫌そうな表情をしながらラティナの整った顔を見る。

 その言葉の意味が分からない彼女は頭に?マークを浮かべ首を傾げる。


「あの人ってだあれ?」

「……お前には関係ない話だ。それより学園はどうなんだ、なにか面白い話はないのか?」

「あ。そういえば面白い話があって……」


 ラティナは自分より若く見える「おじさん」に、学園で起きたことを話す。

 その話の中にはもちろん派閥争いのこともあって……


「くく、そうか。彼は楽しくやっているようだな」


 その話の中に出てきた少年の名前を聞き、彼は悪い笑みを浮かべる。


「どうしたのおじさん。もしかして知り合いだった?」

「ああ、少しな」

「だったら会いに行けばいいのに。学園の関係者なんだから入れるでしょ」

「前にも言っただろ? 今私は学園に入ることが出来ない。だからこうしてお前に聞いているんじゃないか」

「あー……そうだったっけ?」


 すっとぼけるラティナを見て、彼女の保護者的立場である魔術協会会長エミリアは「お前という奴は……」と呆れたようにため息をつく。


「まあいい。とにかく学園で何かあったらまた教えるんだぞ」

「はーい」


 能天気に返事をするラティナ。

 彼女とエミリアは血こそ繋がっていない・・・・・・・・・・が本当の親戚のような存在。その頼みを断る理由はなかった。


 用は済んだとばかりにエミリアは立ち上がり、この場を後にしようとする。

 扉に手をかけ開けようとしたその時、彼は思い出したかのように口を開く。


「……そうだ。近々王都で良くないことが起きる。お前なら大丈夫だろうが気をつけることだ」

「へ?」


 らしくない忠告にラティナは首を傾げる。

 エミリアは彼女の保護者的な役割をしているが、基本的に放任主義でありこのようなことは言ってこない。つまりそれは余程大きなことが起きるということの証左であった。


「分かった。気をつける」

「それでいい。じゃあな」


 エミリアは満足したようにそう言うと、彼女の元を立ち去るのだった。

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