第11話 魔法学園の長
「んん……っ」
体の節々に痛みを感じながら、僕は目を覚ます。
ここは……どこだろう? 視界にまず写ったのは知らない天井、明らかに僕の住んでいる家ではない。
起き上がって辺りを見渡してみるけど、やっぱり知らない場所だった。
部屋のあちこちに本や薬草、魔道具のような物が置かれている。
あ、あの本今度読みたいと思ってたやつだ。勝手に読んだらまずいかな……?
「その本が気になるなら持って帰るといい。もう私の頭の中に入っているからね」
「いえそれは申し訳な……って、ええ!?」
気がつくと黒いローブを身にまとったおばあさんが僕のすぐそばにいた。
いったいいつからそこに……
「どうやらすっかり元気のようだ。若いというのは素晴らしいものさね」
そう言っておばあさんは柔和な笑みを浮かべる。
何があったかは分からないけど、この人のお世話になったみたいだ。
「えと、ありがとうございます。あなたは……」
「おや。私が誰だか分からないのかい」
おばあさんはそう言って黒いとんがり帽子を目深に被る。
すると途端に僕の知っている人の姿になる。
「……が、学園長さん!?」
「ふふ。正解」
僕の目の前にいるのは魔法学園の学園長、ローラ・マグノリアさんだった。
学園の集会で遠くから見たことはあったけど、話したりしたことはないので気が付かなかった。
そうだ、やっと思い出した。
試合が終わったと思ったら突然学園長さんが上からやってきて……あれ、どうなったんだっけ。よく思い出せない。いやそれよりも、
「なんで学園長さんが僕を……?」
「そんな堅苦しい呼び方はおよし。ローラでいいよ」
「分かりました。えと、ローラ先生」
僕の返事に満足したように頷いたローラ先生は、紅茶を淹れ僕に差し出してくれる。
その紅茶は良くみるとほんのり光っている。僕はこの紅茶に見覚えがあった。
「これって光魔法で育てた茶葉で作ったものですよね?」
「おやよく知ってるねえ。さすが
「……え!?」
僕はその言葉に驚き距離を取る。
なんでこの人がそれを知ってるの!? 僕に師匠がいることは秘密のはずなのに!
「まだ傷は完全には癒えていない。暴れると後に響くよ」
僕の警戒など意に介さずローラさんは僕の近くのテーブルに紅茶を置く。
いったい何が起きてるんだ? なんで僕はここにいて、なんでこの人は師匠のことを知ってるんだ?
紅茶を口にしたローラさんは僕の方を見て、口を開く。
「カルス。私が『賢者』であることは知っているね」
「はい、もちろんです。ですから学園長に抜擢されたんですよね」
魔法学園はレディヴィア王国と魔術協会の共同運営組織。そのトップである学園長の座に、賢者以上に相応しい人物はいないだろう。
ローラさんは昔から賢者として第一線で活躍してきた超一流の魔法使いだ。知名度的にもこの人が学園長になるのは納得だ。
「私も魔術協会に所属して四十年を超す……当然あの老いぼれとも長い付き合いってわけだ」
「老いぼれってまさか師匠のことを言ってます?」
「ああそうともさ。ゴーリィとは長い仲になる。それなのにあいつめ、私に黙って賢者を辞めて。おかげでこっちがどれだけ大変だったか……」
ぶつぶつと文句を言うローラさん。
言葉こそ怒りと恨みがこもってたけど、どこかその様子は楽しげでもあった。
それを見ただけで僕は、二人がどんな関係なのかを察した。
「師匠とは仲がいいんですね」
「ふ、そう見えるかい? まああいつと私にも色々あった。何回か本気で殺し合ったこともあったけど……今では笑い話さね」
昔を懐かしむようにローラさんは言う。
二人は戦友みたいな感じなのかな?
「じゃあローラさんは僕のことを師匠に聞いていたんですね?」
「そういうこと。あの堅物に貸しを作るのも悪くないと思ってね。会長はこのことを知らないから安心しなさい」
それを聞いて僕はホッと胸をなでおろす。
魔法学園で一番偉い人が味方なのはとても頼もしい。師匠には感謝してもしきれないや。
でも安心したのも束の間、僕はマズいことを思い出す。
「あ、そういえばみんなの前で呪いを出しちゃったんですけどどうしたらいいですか!?」
「安心しなさい。それも既に手を打ってある」
そう言ってローラさんは杖を持ち、その先端に光を灯す。
怪しく揺らめく不思議な光だ……見たことがない魔法だ。
「魔術『忘却の光』。光属性の『元に戻す力』を利用し、特定の記憶を消すことが出来る魔術さね。あの場にいた者はみな、呪いを見たことを忘れているよ」
「そんな魔法が……ありがとうございます!」
本当によかった。
呪いのことがバレたら学園にいれなかっただろう。
「それにしてもローラさんも光魔法を使えるんですね。驚きました」
「勘違いさせて悪いけど私に光魔法は使えない。魔法と魔術は別物だからねえ」
そういえばそうだった。
魔術は精霊の力を借りず、自分の演算能力のみで
たとえ光の精霊に選ばれていなかったとしても、光属性の魔力を用意出来れば光の魔術を使うことが出来るんだ。
「その魔術って詳しく聞い……」
「悪いが今授業をする気はないよ。それよりもほら、話すべき相手がいるだろう」
そう言ってローラさんは指をパチリと鳴らす。
すると部屋の扉が開いて……僕がさっきまで戦っていた相手、ヴォルガさんが部屋の中に入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます