第8話 乱れ飛ぶ光弾

 激しく降り注ぐ光の砲弾と、地面を駆け回る雷光。

 生徒という枠を大きく超えた二人の戦闘は苛烈を極めた。


「いったい何が起きてるんだ……」


観戦している生徒の一人が思わず漏らす。

 光と雷の属性は、他の属性と比べて速度の面で優れている。高スピードで展開される試合は目で追うことすら困難であった。


突撃せよアタック!」


 カルスが指をさし叫ぶと、その場所めがけ光の砲弾が発射される。

 その一撃は走り回っていたヴォルガの体に命中し、大きな爆発を引き起こす。

過去カルスは飛竜を相手に似たような魔法を使ったことがあるが、五年の歳月で成長したカルスの魔法は、その時より精度、威力共に大きく向上している。

 とっさに魔力で体を防御コーティングしたヴォルガだが、大きなダメージを負ってしまう。


「一発貰っただけでこれか……笑えねえ威力をしてやがる……」


 目の前にはまだ数十個の砲弾が浮遊している。

 走りながら何個か破壊に成功していたが、全て壊すにはまだまだ時間がかかりそうだった。


「となると……やはり直接狙うしかねえか」


 ヴォルガは遠くから自分をジッと見ているカルスに目を向ける。

 光の砲弾ラ・シエルを発動してからカルスはその場を動いていない。

これだけ多くの魔法を使うにはかなりの集中力が必要、動くことは出来ないだろう。ヴォルガはそう考えた。


「行くぞ……雷の肉体リ・バーフ!」


 ヴォルガの体の表面を雷が駆け巡り、彼の肉体を強化させる。

 それと同時に彼の筋肉は大きく膨張する。雷による刺激により筋肉を活性化させ更に身体能力を強化させたのだ。

 その姿はまるでお伽噺に出てくる『狼男』。普通の獣人より更に獣に近づいたその姿にヴォルガの友人たちも驚きどよめく。

普通の『雷の肉体リ・バーフ』にはこのような効果はないが、特訓の末彼は魔法を一段回先のステージへ進化させたのだ。


「引かせてしまったら悪いな。見た者が怖がってしまうからあまりこの姿は使いたくないんだが」

「そんな。かっこいいですよ。後でその伸びた毛モフらせて貰ってもいいですか?」

「……ハッ。この勝負にお前が勝ったら考えてやるよ!」


 楽しそうに笑い、ヴォルガは駆ける。

 とっさにカルスは光の砲弾を動かすが、ヴォルガはその間を一気に駆け抜け距離を詰める。


「――――速い!」


 その動き、電光石火。

 ヴォルガの全力の疾走はカルスの想定を大きく上回るものだった。


移動せよムーブ守りたまえブロック!」


 カルスは光の砲弾を動かし壁のように配置するが、ヴォルガは速度を維持したまま直角に方向転換、壁を避けて進んでくる。


いかづちは何者にも捉えられない……終わりだ」


 右手を振り上げ、鋭利な爪をカルスに向ける。

 一気に詰め寄ったヴォルガはその思い切り爪を振り下ろそうとするが……その刹那、カルスは笑った・・・


「信じてましたよ。あなたならここまで来ると」

「何を言って……っ!?」


 ヴォルガの爪がカルスを引き裂くその瞬間、ヴォルガの足元が急に爆発した。

 予想だにしていないその攻撃を、ヴォルガはもろに食らってしまう。


「がっ!? なにが……!?」


 爆発に吹き飛ばされながら彼は地面を確認する。

 すると地面には薄く伸ばされた『光の砲弾ラ・シエル』が地雷のように敷かれていた。ヴォルガが自分に接近してくることを予測していたカルスは、光の砲弾で壁を作り視界を遮った隙に光の砲弾を地面に設置していたのだ。

 普段であれば気づいただろうが、トドメを刺せる瞬間ともなれば周りに注意を向ける余裕はなくなる。その僅かな隙をカルスは突いた。


「なんのこれしき……!」


 ヴォルガは飛ばされながらも体勢を立て直し着地する。

 今度こそ油断はしない。そう心のなかで誓い前を向く。すると、


「はああああああ!」

「な……っ!?」


 なんと雄叫びを上げるカルスが目の前まで迫ってきていた。

 近距離戦を避け、遠距離に徹するものだと思っていたヴォルガは面を食らう。


光の肉体ラ・バーフ!」


輝く光を身にまとったカルスは、拳を握りしめ思い切りヴォルガの左頬を撃ち抜いた。

 まさかの肉弾戦。ヴォルガは想像以上に腰の入ったその一撃を喰らいその場にフラつく。脳が揺れ、口の中に血の味が広がる。


 倒れそうになるが、脚に力を入れることでなんとか倒れることは回避した彼は……笑った。


「どこまで楽しませてくれるんだお前は……!」


 お返しとばかりに鋭い前蹴りを放つ。

 カルスはその一撃を丁寧に捌き、細かく攻撃を重ねる。


(こいつ、戦い慣れてやがる……!)


 ヴォルガがそう思うほどにカルスの戦闘技術は高くなっていた。

 彼にそれの才能はない。しかし過保護な兄の地獄のしごきに耐え抜いた彼には、確かな技術が身についていた。


 しかしヴォルガも負けてない。

 カルスの攻撃を耐え、鋭い反撃を返していた。しかし……


光の治癒ラ・ヒール!」


 与えた傷は、即座に回復されてしまう。

 戦う回復魔法使いの恐ろしさを、その場にいる者はまざまざと見せつけられた。


「単純な腕力では貴方に敵わないでしょう。でも僕には技術と光魔法がある。絶対に――――勝つ!」


 強い魔力を込めたカルスの蹴りがヴォルガの腹に突き刺さる。

 せめて一矢報いなければ。ヴォルガは後方に吹き飛びながらも爪を立てカルスの胸の部分を引っ掻いた。


「っ!!」


 胸に走る鋭い痛みにカルスは顔を歪める。

 制服が裂け、少し赤い染みが出来る。これくらいなら大丈夫だろうとカルスは傷を確認する……が、それを目に入れたカルスの顔が曇る。


「しま……っ」


 ヴォルガが切り裂いた箇所。

 偶然にもそこは心臓がある位置であった。


 そこは元々呪いがあった場所。今その場所には呪いを抑える『魔法陣』が刻まれている。

 いや、刻まれていた・・


 ヴォルガの攻撃はその魔法陣を引き裂き、破壊してしまっていた。

 魔法陣には光の魔力が溜め込まれており呪いを常に抑える効果がある。それが壊れたということは、呪いを抑える物がなくなったことを意味する。


 五年間もの間押さえ続けられていた呪い。溜まりに溜まったそれは歓喜と共に解き放たれる。


光の浄ラ・ルシ――――」


 急いで魔法を唱えようとするカルスだが、解き放たれた呪いはそれを許さず一瞬でカルスの体を乗っ取り……彼の意識は黒く染まり、消失した。

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