第6章 初めての好敵手《ライバル》
第1話 緑の令嬢
翌日。
珍しく今朝はクリスが僕の家に迎えに来なかった。
寝坊をしているか、朝の特訓に身が入りすぎているのかのどっちかかな?
静かな朝を過ごした僕は、一人で学園に向かう。
「いつもは二人だから少し寂しく感じるね……ん?」
校門をくぐり、教室へ向かっていると、三人ほどの生徒が正面から僕の方に歩いてきた。
道の端に避けてぶつからないようにしたけど、その人達の目は明らかに僕を捉えている。僕になにか用があるのかな?
三人共面識はないはずだけど……
「初めまして。君がカルスくん……で、いいのかな?」
そう話しかけてきたのは緑色の髪が特徴的な綺麗な女の人だった。
同じ生徒のはずなのに大人びていておしゃれな感じの人だ。先輩なのかな? 他の二人の生徒は彼女の後ろで足を止め黙っている。
どうやらこの女の人の付き添いみたいだ。
「はい。僕がカルスですけど……あなたは?」
「私は二年の上流クラス所属、ラティナ・リリエノーラ。よろしくね」
そう言ってラティナさんはニコッと笑顔を向けてくる。
リリエノーラ家といえば確か結構な名門だったはず、僕もその名は聞いたことがある。
そこの令嬢なだけあってラティナさんは立ち振舞いには気品を感じる。だけどそれだけじゃなくて今どきの女の子の感じも併せ持っている様に見える。
不思議な人だ。
「あの。ラティナさんは何のご用でしょうか?」
「君に少し聞きたいことがあって来たの。少し時間を貰ってもいい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ふふ、ありがと」
少し前にも貴族の人に話しかけられたけど、あの時とは違って高圧的な感じがしない。
一口に貴族といっても色んな人がいるんだね。
「君がこの前マルスに勧誘を受けたって聞いたんだけど、それって本当? あの青い髪のいけ好かない奴」
「ああ……そういえばそんなことありましたね」
そう答えると、ラティナさんの後ろにいる二人の生徒が眉をひそめ、僕のことを警戒するように睨む。
あれ、なにかまずいこと言っちゃった?
「……その誘い、君は受けたのかな?」
「え、いや、受けてませんよ。僕そういうの興味ないんで」
「そう、それなら良かった。かわいい後輩と敵対したくないからね」
そう言って先輩は嬉しそうに笑う。
敵対。ずいぶん穏やかじゃない言葉が出てきた。話の流れから察するに……
「ラティナさんはマルスって人と対立してるんですか?」
「私が、っていうより私の家と彼の家が、の方が正しいけどね。だから面倒くさいけど私が彼の行動を抑えないといけないの」
はあ、と面倒くさそうにラティナさんはため息をつく。
「じゃあラティナさんは別にあの人と争いたいわけじゃないんですね?」
「そうよ。私は将来モデルになりたいの。貴族同士のいざこざになんてこれっぽっちも興味ない。パパがどうしてもっていうからこんなことしてるけど、政争なんて関わりたくもないわ」
ざっくばらんに胸の内を明かしてくれるラティナさん。
本当に今どきの人って感じだ。最近は一人の偉い人が上に立つ『君主制』は古いと言われ始めている。王国という概念がなくなる日も意外と近いのかもしれないね。
「カルスくんがあいつの仲間になってないなら話は終わりね。時間を取らせてごめんね」
「え、はい。あの……勧誘とかはされないんですか?」
思わずそう尋ねてしまう。
マルスという生徒はこうしている間にもどんどん派閥を大きくしているはず。一人でも仲間は多く欲しいはずだ。
しかし先輩の考えは違った。
「君が私の派閥に入りたいというなら歓迎するけど、こんな小競り合い参加したくないでしょ? 面倒くさいことは先輩に任せて学生生活を楽しみなさい」
ラティナさんは「じゃあね」と言うと去っていってしまう。
その後ろをついていく二人の生徒。この人たちはきっと自分の意志で彼女を手伝おうと思ったんだろうな。
「結束度で言ったらラティナさんは負けないと思うけど、マルスって人は手を選ばなそうなんだよなあ。そんな争いなんかしないで学園を楽しめばいいのに」
とはいえマルスって人にも引けない事情があるのだとは思う。貴族にも色々あるだろうからね。
何もトラブルが起きなければいいのに。そう思いながら僕は自分のクラスに向かうのだった。
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