第8話 星の虜囚
「生きて……るんですか……!?」
手足と胸を貫かれ、かなりの長い間地下室に閉じ込められていたはずなのに、その人は僕のことをまっすぐに見据え、しっかりと喋った。
魔力で動く人形、ゴーレムなのじゃないかとも考えたけど、それにしてはあまりにも人に近い。多分生きている……と思う。
「ふむ、面白い質問だ。君たちの『生きている』定義は分からないが……私はちゃんと呼吸をし、循環し、生命活動を行っている。君たちの言う『生きている』に当てはまっているとは思うが、どうだろうか?」
「えっとじゃあ生きてる……んですかね?」
よくわからないけど、ひとまずそういうことにしておこう。
それよりまずは話を聞かないと。この人は僕の知らないことを知っているはず。そしてそれはきっと呪いを解く大きな手がかりになるはずだ。
「僕の名前はカルスといいます。あなたのお名前を教えて頂けますか?」
「いいとも。私はせ……」
「ちょっとカルス! この人いったい何者なの!?」
謎の女性の言葉は、相棒のセレナの乱入によりかき消される。
いったいどうしたんだろう?
「この人、普通の魔力じゃないわ! もっとそう……私達精霊に近い魔力よ! こんな人見たことない……!」
動揺した様子のセレナ。こんなに取り乱した彼女を見るのは初めてだ。
それほどまでにこの人の存在は『異質』なものなんだ。
その辺も含めて色々お話を聞いてみよう。
「すみませんセレナが話を中断してしまって。続きを……ん?」
そう言って僕は違和感に気がつく。
この人、セレナの言葉に反応して喋るのをやめた……!?
しかも彼女は目を少し見開きながらセレナの方を見ているじゃないか。これはもう確定だ。
「あなたには見えているんですか? 精霊の姿が……!」
「……そうか。今の人は見ることすら出来なくなっているのか。嘆かわしいことだ」
そう言って彼女は残念そうに目を細める。
間違いない。この人はセレナが見えている。そしてこの人が活動していた時期……どれほど昔かは分からないけど、その時代の人は精霊を見ることが出来たんだ。
これは驚きだ……!
「改めて。私の名前はルナ、聖なる月の守護者にしてこの牢獄の虜囚。そして君が察している通り……昔の時代の魔法使いだ」
「――――っ!!」
遥か昔、精霊と魔法使いは共存していて、魔法使いの力は今よりずっと強かったと聞いたことがある。この人はきっとその時代の人なんだ。
知らない単語もあって言ってること全部は理解できなかった。詳しく聞いてみよう。
「えっと虜囚、っていうのは……?」
「言葉のままだ。私はこの地下空間に囚われ、動くことが出来ない。この体に刺さる刃は特別性でな、私の力を封じる力がある。並の魔法使いでは触れるだけで死に至る強力な呪具、そなたは中々の魔力を持っているようだが……触らぬほうが身のためだ」
「わ、わかりました」
そんな物騒なものが五本も突き刺さっているのに死なないなんて、ルナさんはどれほどの魔法使いなんだろう。ぜひ魔法を見せてもらいたかったな。
「えっと、なんでルナさんがこんな所に囚われているかは聞いても大丈夫ですか?」
「ああいいとも。私は地上唯一にして絶対の『月の魔法使い』であった。信徒も多く、大勢のものに慕われていた。しかし同時に多くのものに恨まれてもいた」
目を伏せ、自嘲気味に彼女は語る。
怒りか悲しみか無力感か。その真意は僕には量れなかった。
「私の力を恐れた五人の魔法使いは、私の不意を突きこの椅子に私を縛り付けた。決して逃げられぬよう神をも縛り付ける呪具を五つも用いて、な。そして地下深くに私を幽閉し、開かぬ扉で封をした。全く、念入りなやつらだよ」
ルナさんの話を聞くに、彼女はかつてこの地を全ていた『魔の者』とは関係なさそうだ。
それよりも前、ずっと前から彼女はここにいたんだ。
いったい何百年、いやもしかしたら何千年前も昔の話なのかもしれない。
「――――と、こんな所だ。恨みを買い、後ろから刺される。古今東西よくある話だ。つまらない話で悪いな」
「いえ、とても興味深かったです。ありがとうございます」
彼女から聞いた話を必死に脳に刻み込む。
こんな貴重な話、他では聞けないだろう。
「あ、そうだ。お話頂いた中で聞いたことのない単語があったんですけど、それの意味を聞いていいですか?」
「ああいいとも。どれのことだ?」
僕はずっと気になっていたその単語を、ルナさんに尋ねる。
「『月』って、なんのことですか?」
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