第7話 閉ざされた扉
※ページ最後にお知らせがございます。最後までお読み下さい。
◇ ◇ ◇
「えーっと……確かこっちだったよね……」
魔法学園の時計塔に着いた僕は、入り口ではなく。その裏手に回り込む。
裏手には木箱などが乱雑に置かれている。道があるわけでもないから人なんて滅多に来ないんだろうね。
「ここ、でいいのかな?」
時計塔裏手の一部分に、物が置かれてない箇所がある。
そこに近づいて壁に手を置き、魔力を流す。すると……
「おお、開いた……!」
ゴゴ、と音を立てながら壁が扉のように開いた。
時計塔の主、サリアさんに教えてもらった秘密の入り口だ。これならいちいち魔法錠を解く必要もない。
「おじゃましまーす」
時計塔の中に入ると、すぐに扉が閉まってただの壁に戻る。これは便利だ。
「先輩、いますかー?」
目の付く範囲に姿は見えないけど、そう呼びかけてみる。
すると近くの物の山がガタガタと動き、崩れる。
「おや、後輩くんじゃあないか。さっそく来るとは感心だねぇ」
けほけほ、と埃にむせながらサリアさんが現れる。いくら体が小さいとはいえ、こんな物の山に埋もれていたなんて……
「こんにちはサリアさん。実はちょっとお尋ねしたいことがあって来たのですが……」
「ほう、話してみたまえ」
さすがに夢のことは話せないので、学園の地下に眠る迷宮を探していると話した。
その入口が時計塔の下にあるのかもしれない、と。
ちょっと無理のある話かなと思ったけど、サリアさんは「ふむふむ」と興味深そうに聞いてくれた。
「ふむん、王都地下迷宮か。どこで知り得たのかは知らないが、その入口が時計塔にあるかもしれないという君の推理は中々鋭いぞ。さすが未来の助手候補だ」
勝手に助手候補にされてる。
いや、引っかかるのはそこじゃないね。僕の推理が鋭い? この人は何を知っているんだ?
「来たまえ」
時計塔の部屋隅まで歩いた彼女は、おもむろに床板を外す。
するとその下から……なんと地下に続く道を塞いでいるような石の扉のようなものが現れた。
「こ、これは……!?」
「興味深いだろう? この石に刻まれている紋様は、千年以上前の時代に使われたものだ。一体この下に何が眠っているのか、君も気になるだろう?」
「せ、千年……」
ということはレディヴィア王国が出来るよりもずっと前からこの扉はあるみたいだね。
となるとご先祖様が倒した『魔の者』関連か、もしかしたらそれより前の時代のものかもしれない。話が大きくなってきたぞ……
「この扉は魔法で隠されていた。しかし実験中に起きた爆発でそれが解けたみたいでね、この扉の存在は私しか知らない。怪我の功名というやつだよははは」
「この時計塔、崩れたりしませんよね?」
爆発って頻繁に起きてないよね?
少し怖くなってきた。
「サリアさんはこの中には入ったのですか?」
「色んな方法を試したが、ついぞこの扉は開かなかった。この紋様が何かの『鍵』になると思うのだがねえ」
そう言ってサリアさんは扉に描かれた紋様を手でなぞる。
「古代語で『光』と『闇』を表す紋様だ。それが『星』の紋様を覆う形になっている。いったい何を表現しようとしているのか……非常に興味深い」
サリアさんが分からないん僕に分かりようがない。
どうしよう、そう考えながら扉に手をつく。すると、
「うわっ!? なに!?」
急に扉の紋様が光りだす。そしてゴゴゴゴ、という音とともに扉がゆっくりと動き出す。
「こ、後輩くぅん!? 君はいったい何をしたんだい!?」
「僕もわかりませんよぉ!」
「ひとまずこっちに来たまえ! 危ないぞ!」
サリアさんとともに一旦距離を取り、扉を見守る。
結構な振動なので時計塔がミシシ……と嫌な音を奏でてくれている。頼むから倒れないでね……
「はは……見ろ後輩くん。扉が開いたぞ。君には驚かされっぱなしだな」
「ぼ、僕も驚いてますけどね……」
扉の下にあったのは地下へ続く階段。
それはかなり下に続いているみたいで、下の方は暗くてまったく見えない。
「なんで開いたのかは分からないが、それを考えるのは後にしよう。大事なのはこの下に何があるか、だ。さっそく探検と洒落込もうじゃあないか」
ウキウキした感じで地下に向かおうとする先輩。行動力が高い。
しかし先輩を一人で行かせるわけにもいかない。僕も地下に何があるのか気になるので後をついていく。すると、
「さて、さっそく降り……みぎゃ!」
変な声と共にサリアさんが突然後ろに吹き飛ぶ。
たまたまそこにいたから何とかキャッチ出来たけど、危なかった……
「だ、大丈夫ですか!?」
「いつつ……びっくりした。ナイスキャッチだ後輩くん、助かったよ」
パンパンと埃を払った先輩は自分の足で立ち、扉の方を見る。
「入ろうとした瞬間、結界のような物で弾かれてしまった。どうやら私は招かれざる客だったようだね」
「そんな。じゃあどうすれば……」
そう困っているとサリアさんは僕の方に視線を移す。
「私は駄目だったが、君なら行けるかもしれない。あの扉は君が触って開いたんだ、可能性は高い」
「た、確かに。少し怖いけど試してみる価値はありますね」
おっかなびっくり階段へ足を踏み入れる。
するとサリアさんと同じように弾かれ……なかった。普通に入れる。
「どうやら決まり、みたいだな。君は招かれているようだ」
「そうみたいですね……どうしましょうか?」
正直こんな得体の知れない穴に入っていくのは怖い。
誰かの指示を仰いだほうがいいのかな?
「この階段が魔術協会に知られたら私達に探索する機会は訪れなくなるだろう。君がこの先にあるものに興味があるのなら……行くべきだ。君が決めるといい」
「僕が……決める」
この下に何があるのかはわからない。
でも僕の中にあるなにかが言っていたことと、僕しか入れないところを見るに、呪いに関係がある可能性は高い。
「僕は……行きたいです。たとえ危険だとしても」
そう言うとサリアさんは嬉しそうに笑みを浮かべ、僕の背中をバシッと白衣の袖で叩く。
「よく言った、それでこそ我が未来の助手くんだ。人は知るのをやめた時進化がとまる。行きたまえ、しばらく経っても戻らなかった時は応援を呼び助けに行く」
「ありがとうございます。行ってきます!」
サリアさんに後押しされ、僕は真っ暗な階段を降りその地下に向かう。
「本当に真っ暗だね、
光の玉を出して、目の前を照らす。
階段はずっと下まで続いている、どこまで下がるんだろ。
「……不思議なところね。冷たい魔力が充満しているわ」
階段を降りていると、相棒のセレナが出てきて話しかけてくる。他の人がいる時は姿を消していることが多い彼女だけど、二人きりの時はよく出てきてお話をしてる。
「冷たい魔力かあ。確かに実際ここ寒いんだよね」
下がれば下がるほど、空気はひんやりしてくる。
我慢出来ないほどじゃないけど、結構寒い。
「……あ、終わりが見えた」
階段を下って約十分。とうとう終わりが見える。
セレナとアイコンタクトを取り、警戒心を高める。急に何かが襲ってくる可能性もある。
用心するに越したことはない。
「よし……入るぞ……」
そこは円形の部屋であった。そこそこ広くて、部屋の隅には机や本棚がある。
そのどれもが古くて埃をかぶっている。最近人が入った形跡はない。
それらも気になるけど……僕が一番気になったのは、部屋の中央に置かれた石の椅子。それに座っている存在だった。
「あれって……人形? それとももしかして死体……?」
石の椅子には青い髪の女性が座っていた。
真っ白な肌の、美しい女性。まるで作り物みたいに綺麗な人だ。
その女性の両手の甲には石の短剣が突き刺さっていて、椅子の手すりごと貫かれて固定されている。
よく見れば足の甲にも短剣は突き刺さっていて、床に縫い付けられている。
とどめてばかりに胸には石の槍が突き刺さり背もたれごと彼女を貫いている。
「ひどいねこれ……誰がこんなことを」
絶対にここから逃さない――――そんな意志を感じる。
ひとまず近づいてよく見てみよう。
そう思ってその人のもとへ近づいたその瞬間、驚くべきことが起こる。
「――――何年ぶりか、ここに人が来るのは」
部屋に響く、透き通った声。
その主は……椅子に座る女性から発せられた。
ゆっくりと青い瞳を開けた彼女は、僕のことをまっすぐに見つめ、薄く笑みを浮かべる。
「歓迎するぞ少年。ようこそ私の『牢獄』へ」
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【お知らせ】
本作の書籍化・コミカライズが決定いたしました!
応援してくださる皆様のおかげです、ありがとうございます!
頑張っていい本に仕上げますので、楽しみにしていただけると嬉しいです!
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