第5話 仮面の下は
かつてカルスの師となり、光魔法を教えた少女シシィ。
自らの体を犠牲にしてまでカルスの成長を促した彼女の力がなければ、カルスは『
あの日屋敷で別れて以降、カルスとシシィが再会することはなかった。
だがあれから五年経ち、二人はとうとう再会した。
しかしシシィとしてではなく、聖女セシリアとして。
「なんで私だと分かったのですか……? 結構見た目変わったと思うのですが……」
「確かにシシィ様は立派に成長なされました。色々と」
そう言ってシズクは彼女の胸をジッと見る。
そこにそびえ立つ立派な双丘は、シズクのそれに負けずとも劣らない。同級生と比べたらその戦力差は圧倒的と言って差し支えない。
「しかし細かい所作……喋る時のくせや呼吸の仕方、手癖などはそう簡単に誤魔化せません。私はそれを見極めることが出来るのです」
かつて暗部としての訓練を受けていたシズクの洞察力と分析力な非常に高かった。
それを聞きシシィは感心したように言う。
「それで分かってしまうとは凄いですね。さすがシズクさんです」
そう柔和に微笑む彼女は、五年前のあどけない彼女そのものだった。
目隠しを外す前の凜とした彼女とは大違いだ。
「それにしてもまさかシシィ様が聖女、しかも王族であらせられたとは。全く気がつきませんでした」
「あの時は身分を隠していましたからね。申し訳ないとは思っていましたが、ゴーリィ様の配慮でそういたしました」
存在を抹消されている王子のもとに、他国の姫が行く。
もし公になれば間違いなく問題になるだろう。ゴーリィの配慮は当然のものであった。
「あの頃とは立場が変わってしまいましたが、変にかしこまらず昔と同じように接していただけると嬉しいです。最近は楽しくお喋りできる機会も減ってしまったので」
「……かしこまりました。ではそのようにさせて頂きます」
シズクの返事にシシィは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「私は聖女という役割を誇りに思っています。しかし……やはり時々どうしても寂しい気持ちになってしまいます。普段はこの目隠しの下に隠せているのですけどね」
その目隠しは、シシィにとって仮面のような物だった。
聖女という仮面。これをつけている時、彼女は聖王国の聖女として振る舞うことが出来る。しかしその下には今も気弱で優しい少女が確かに生きていた。
それを知ったシズクは、気になっていたことを尋ねる。
「ではどうしてカルス様に正体を明かされなかったのですか? カルス様であれば昔のままの貴女を受け入れて下さったでしょう」
そう問われたシシィは体をビクッと一回振るわせる。
そして思いもしない意外な返事をする。
「だ、だって……すっごくかっこよくなってるんですもん!」
その返事にシズクはぽかんと口を開ける。
一方シシィは早口で捲し立てるように話す。
「わ、私も言おうとしたんですよ? でも大きくなられたカルス様がかっこよすぎて……目隠しを外せなかったんですぅ! うう、情けないと罵ってください……」
シシィの目隠しは、ある程度外を見ることのできる特殊な作りになっている。
なので彼女はカルスの顔をおぼろげながら見ることが出来た。しかしその状態で心臓が限界になってしまったので目隠しを外すことが出来なかったのだ。
あまりに情けない告白。顔を真っ赤にする彼女だが、シズクはそんな彼女の手を優しく握る。そして、力強く言う。
「その気持ち……めっちゃ分かります」
「へ?」
予想だにしないその言葉に、シシィは間の抜けた声を出す。
「めっちゃ分かる。と、言ったのです。私はずっとお側にいたのでゆっくり慣れることが出来ましたが、シシィ様は五年ぶりにお会いになりました。直視出来ないのもの当然です。なんら恥じることはありません」
「そ……そうですよね! 良かった、私は普通ですよね!?」
決して普通ではないのだが、この場にそれを指摘するものはいない。
しかしそれはシシィにとって救いとなった。
「時間ならあります。ぜひゆっくりとカルス様と親交を深め、慣れてください。カルス様もシシィ様にお会いするのを楽しみにしてます。明かせるようになるといいですね」
「はい、ありがとうございます。このままずっと明かせなかったらどうしようと不安になってたんです。シズクさんが味方になってくれて本当に良かったです」
そう言って無邪気に喜ぶ彼女を見て、無表情なシズクも思わず笑みをこぼす。
自分が敬愛する主人を慕ってくれる人がいることは、彼女にとってもとても喜ばしいことであった。
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