第3話 庭園のお茶会

 聖王国リリニアーナは、レディヴィア王国の南東にある一大宗教国家だ。

 光の神ライラを信仰していて、国の至るところに教会があるらしい。


 『光神教』で修行し、光の魔法を修めた修道女は『聖女』と名乗ることを許される。てっきり学園にいる聖女っていうのはそういう人なのかと思ってたけど、セシリアさんはなんとお姫様でもあるらしい。

 王家血を引くの聖女。まさかそんな凄い人が学園にいたなんて。

 学園の図書館にこもる時間が多いせいか気がつかなかった。


「えーと……ここかな?」


 昼休み。僕は一人で紹介状に書かれていた場所を訪れていた。

 そこは自然豊かな中庭で、たくさんお花が咲いていた。こんな綺麗な場所が学園にあったんだ。

 ちなみにお昼ご飯はまだ食べていない。というか……お弁当を持ってくるのを忘れてしまった。痛みのせいでボーッとしていたからだ、シズクには悪いことをしてしまった。


「そこの生徒さん、ここに何の用ですか?」


 花を眺めながら歩いていると、一人の生徒に呼び止められる。

 彼女の羽織っている服には光の形を模した紋章が書かれている。あれは確か聖王国の国章、つまりこの人は聖王国の関係者みたいだね。


「申し訳ありませんが、ここは普通の生徒の立ち入りが制限されています。迷ったのなら案内しましょうか?」

「あの、僕これを貰って……」


 このままでは追い返されそうだったので、机に入っていた手紙を見せる。

 すると手紙を見たその人の表情は急変する。


「し、失礼しました! まさかセシリア様のお客人とは知らず……! すぐにご案内いたします!」


 今まで毅然とした態度だったのに、急に物腰が低くなった。

 それほど聖女様と言うのは敬われているんだなあ。


「どうぞ奥に、セシリア様がお待ちです」

「はい」


 彼女の後ろについていき、庭の中を進む。

 すると歩きながら彼女が話しかけてくる。


「今日お呼ばれしたということは、あなたがカルス様ということでよろしいですか?」

「はい、そうです」

「そうでいらっしゃいましたか。私は2ーAに所属していますミリアと申します、どうぞお見知り置きを」


 ミリアさんはどうやらセシリアさんと同じクラスみたいだ。

 お姫様のお付きの人ってとこなのかな?


「時にカルス様は光魔法をお使いになると聞きましたが……」

「はい、一応使えます」


 そう答えるとミリアさんの顔がパッと明るくなる。


「そうですか! それはとても素晴らしいことです。あなたにライラ様のご加護があらんことを」


 手を組み、ミリアさんは天に祈る。

 聖王国の人はそのほぼ全てが光の神ライラを崇める『光神教』の教徒だ。ミリアさんもその一人なんだろう。


 かつて空から舞い降り、世界に光をもたらしたとされる光の神。

 そんなものが本当に存在するのかなと昔は思ってたけど、精霊が本当にいるのだからその神様も本当にいるんじゃないかと最近は思えてきた。


「私もかつては教会で修行し、聖女の道を目指していました。しかし私に宿ったのは光の力ではありませんでした。その時は絶望しましたが、今はご縁からセシリア様のお付きという大役に就くことが出来ました」

「……そうだったんですね」


 師匠は『光魔法の使い手は少ない』と言っていた。

 光の神を信仰する聖王国でもなれる人は少ないんだ。僕は本当に運が良かったんだね。


「光の精霊は他の精霊と比べてそもそも数が少ないから無理もないわ。いくら強く想われても、魔力の質が良くないと寄り付かないでしょうね」


 光の精霊であるセレナもそう言ってる。

 それにしてもそのセシリアさんって人はどんな人なんだろう。光の魔法を使えて、更に王族だなんて僕と共通点が多い。仲良くなれるといいな。


「さ、着きました。この先でお待ちです」


 ミリアさんに促され、オレンジ色の綺麗な花に囲まれた庭園に足を踏み入れる。

 庭園の中央に置かれた白いテーブルと椅子。そこで彼女は待っていた。


「よくいらっしゃいました。急にお呼びたてして申し訳ありません。どうぞ座ってお寛ぎください」


 ゆったりとしているけど、よく響く綺麗な声。

 陽の光を反射し輝く綺麗な金髪ブロンドを揺らしながら、聖女セシリアさんは僕に座るよう促してくるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る