第5章 金の聖女と星の虜囚

第1話 望まぬ再会

 上下左右の感覚がない、ひたすらに真っ暗な空間。

 そこに突然放り出された僕は座ってそれの出現を待ち続けた。


 恐怖は、ない。


 来るなら来い。もうただ怯えていただけの僕はいないぞ。

 呪いになんか屈しはしない。


「……来た」


 目の前の空間がぐにゃりと歪み、そこから人の形をしたなにか・・・が姿を現す。

 人の形をしてはいるけど、細かいところは見えない。いったいこれの正体はなんなんだろう?


『……ヒサシ、ブリ。ダネ』


 鼓膜を直接なでるような耳障りな声でそれは話す。

 唯一認識出来る、それの光る目は細くなっている。笑っているのか……?


「何の用だ。僕に何か伝えたいことでもあるのか?」

『……カルス、ゲンキソウ。ボク、ウレシイ……』


 くすくす、と心底嬉しそうにそれは笑う。

 本当に喜んでいるのか、それともからかっているのか。こいつの本心が分からない。


『ネェ、カルス……』


 しばらく笑っていたそれは、笑うのをやめたかと思うと急に真面目なトーンで話し出す。

 そして次の瞬間、思ってもいないことを尋ねてくる。


『ノロイ、トキタイ……?』

「――――っ!?」


 呪い、解きたい? だって?

 分からない、何を言いたいんだ? だってこれが呪い自身じゃないの?

 それとも何か根本的な見落としをしてしまっているのだろうか。だけどまだ僕をおちょくっているという可能性も捨てきれない。

 分からない……こいつは何者なんだ!?


「呪いは解きたいに決まってる。君にそれが出来るの?」


 そう尋ねると目の前のそれは横に首を振る。

 その動作はどこか悲しげだ。まさか本当に手伝ってくれるつもりなの??


『イク。チカ』

「ちか……?」


 何のことか分からず首を捻ると、目の前のそれは手のようなもので下を指差す。

 下……ちか……そっか、『地下』のことか!


「地下がどうしたっていうの?』

『トウ、チカ、イル……』


 塔の、地下。

 最近行った塔といえば時計塔だけどそこのことなのかな?

 あそこに地下へ通じる道なんてなかったと思うけどどこかに隠されているのだろうか。


 場所も気になるけど一番気になるのはそこに何がいるかだ。

 まさか師匠の言っていた地下迷宮があるとかじゃないよね? そこが僕の呪いと関係あるの?


「その地下には誰がいるの?」

『アオ、イル……アレ、ヤクダツ』


 何かを伝えようとしてくれているけど、いまいち伝わらない。

 そこに何がいるかは自分で確かめてみるしかなさそうだ。


「……分かった。君のことを信じるわけじゃないけど、地下は調べてみるよ」


 そう言うとそれは嬉しそうに目を細め……僕の手を握ってきた。


『ウレシイ……』


 その瞬間、全身に鋭い痛みが走る。


「……あ゛、が、う゛……っ!?」


 この痛みは忘れもしない。呪いが酷かった時に感じていた痛みだ。

 まるで全身の毛穴に針を刺されたような痛み。思わず命を絶ってしまいたいと思うほどの激痛に僕はその場に崩れ落ちる。


「や、め゛……」


 痛みの中、それの手を振り解こうとするけど力が入らない。倒れ込み痛みに呻く僕を覗き込みながら、それはぎゅうぅ……と僕の腕を強く握る。


『イタイ、ネ。ウレシイ、ネ……』

「何を言って……」


 歯を食いしばって言い返そうとするけど……力が入らない。

 立つことも喋ることも出来なくなり、意識がだんだん薄れていく。うう、痛い……なんで、なんで僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。


『マタ、ネ……』


 いまだ正体の分からないそれに腕を握られながら、僕は意識を失ったのだった。

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