第18話 学園に眠る謎

「馳走になった。やはりシズク殿の料理は絶品だな、カルスも大きく育つはずだ」

「ふふ、そんなにお褒めになっても何も出ませんよ? あ、デザート入ります?」


 意外とちょろいシズクを尻目に、僕も食事を終える。

 学園で師匠と出会った僕は、一緒に家に帰ってきて食事を楽しんだ。どうやら師匠は王都に用事があったみたいで、それ終わりで僕に会いに来たらしい。


 何やら他にも用事はあるみたいだけど、ひとまず食事を先に済ませゆっくり話すつもりだ。


「さて、カルスよ。お主が屋敷を出てもうすぐ一月近くなるな。こっちの暮らしは慣れたか?」

「はい。学園も楽しいですしとても充実してます。あ、そうそう学園の図書館って凄いたくさん本があるんですよ! 三年で読み切れるかと心配で」

「ふぉふぉ、どうやら楽しくやれてるようなじゃな。それは何よりじゃ」


 満足そうに頷いた師匠は椅子から立ち上がる。

 そして僕のそばに来ると立ち上がるよう促す。


「カルス、左胸を見せてみい」

「……はい」


 少し渋ったけど、観念して服を脱いで上半身を晒す。

 師匠は僕の左胸にあるそれ・・を見て「ふうむ……」と呟く。


「少し大きくなっておるな。やはり完全に侵食を止めることは出来ぬか」


 師匠の視線の先にあるのは僕の体に刻まれた『呪い』だ。

 歳を取るごとに呪いの侵食速度は少しづつ上がっている。今はなんとか抑えることは出来ているけど……無事成人を迎えることの出来る保証は、ない。


「で、でも痛みとかはないんですよ! 体も動きますし!」

「ばあっかもん。痛むようだったら学園など行かせたりせんわ。それよりほれ、魔法陣を書き直すからジッとせい」


 師匠はそう言って『方陣筆』と呼ばれる特殊な筆で、僕の呪いの上から魔法陣を書く。

 今僕に書かれている魔法陣には光の魔力を溜める効果がある。これに『光の浄化ラ・ルシス』の力を溜めることで普段から『光の浄化ラ・ルシス』の効果を呪いに当て続けているのだ。


「どうやら自分で魔法陣を書き直したようじゃが、まだまだ線が甘い。このようなガタガタの魔法陣じゃ一週間も持たんぞ」

「はい……精進します」

「じゃがまあ、自分の体に書くのは難しいのも分かる。知り合いの『方陣師』が王都におるから今度尋ねてみるといい。儂の名前を出せばきっと力になってくれるじゃろう」

「は、はい! ありがとうございます師匠!」


 そんなことを喋っている間に、師匠は僕の左胸に立派な魔法陣を書き終える。

 僕の書いたものよりずっと正確で綺麗な魔法陣だ。これならしばらくは持ってくれる。


「さて、美味い飯も食えたし、弟子の様子も見れた。そろそろお暇するとするか」

「へ? 泊まっていかれないんですか?」


 外はもうすっかり暗くなってしまっている。

 てっきり泊まっていくものだとばかり思っていた。


「明日も朝からやることがある。宿に泊まった方がお互い気を遣わなくて済むじゃろうて」

「朝からやることって……もしかして僕の呪いのために動いてくれているんですか?」


 その質問に、師匠は困ったような笑みを浮かべる。

 ……そっか。師匠は一人でも動いてくれているんだ。


「言っておくがお主が気に病む必要はないからの。これは儂の『夢』のためなのじゃから」

「……わかり、ました。でもお礼は言わせてくださいね。ありがとうございます師匠、お気をつけて」


 そう言って下げた頭を優しくぽんと叩き、師匠は家を出ていった。

 その後ろ姿を見ながらぽつりと呟く。


「……やっぱり師匠には敵わないや」


 家を出て、少しは大人になった気になってたけど、僕はまだまだ子どもだった。

 いつか本当に大人になった時、ちゃんと恩を返せる大人になれるようになっていたらいいな、そう僕は思ったのだった。



◇ ◇ ◇


 夜、僕はいつも通りベッドに横になっていた。

 考えるのは今日授業で学んだこと、サリアさんと話したこと、そして師匠と話したこと。


「学園の地下迷宮、かあ」


 それは食事中に師匠がポロッと話したことだった。


『学園には七不思議と呼ばれるものがあった。今でも残っておるのではないか? わしが在学しておる頃はそれを専門に研究する生徒の集まりもあったものだ』

『へえ、そんなものがあったんですね。どんな内容なんですか?』

『特に有名だったのは学園の地下に眠る迷宮の話じゃな。王都ラクスサスはかつて魔の軍勢の居城であった。それは知っておるな?』


 その話ならよく知っていた。

 だって魔の軍勢を相棒の竜と共に打ち滅ぼしたのは、僕のご先祖様だからだ。

 その人がレディヴィア王国を建国し初代国王になったんだ。


『学園地下にはその居城がまだ残っているという噂があった。儂も興味があって探してはみたこともあるが、結局入り口を見つけることすら敵わなかった。興味があるなら探してみるといい』


 師匠はそう言っていた。

 謎の地下迷宮、健全な男子として興味をそそられる言葉ではある。それにそんなに昔の建物なら、僕のご先祖様のことも何かわかるかもしれない。

 初代国王アルス様には謎が多いからね、ぜひ色々と知ってみたいな。

 そんなことを思いながら僕は眠りにつき……そして、目を覚ました。


 僕の部屋ではなく、真っ黒い空間で。


「――――まさかまたここに来ることになるとはね」


 この空間に僕は見覚えがあった。

 以前僕はこの空間で呪いの根源らしき存在に出会ったんだ。


 あれ以来一回もここを訪れることはなかったから油断していた。一体今度は何の用なんだ?

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