第17話 思わぬ再会

「……少し長話をし過ぎたようだね。今日は楽しかったよ」


 陽が傾き始めた頃、サリアさんは僕にそう切り出してきた。

 最初は興味本位でここに来たけど、まさかこんなに凄い話を聞けることになるなんて思わなかった。


「はい、僕も楽しかったです。ところでサリアさんの研究の手伝いってさせて貰えるのですか……?」


 色々なことがあってその話にたどり着けていなかった。

 人間が精霊と見ることの出来る研究、ぜひとも手伝ってみたい。その一心で尋ねてみると、サリアさんは「ふっ」と鼻で笑う。


「『手伝わせて貰えるか』だって? ずいぶんとぼけたことを聞くねぇ君は」

「……へ?」

「いいかい後輩くん、君はもうこの研究所ラボの名誉研究員なのだよ! 辞めたいと言ってもそう簡単には辞めさせないから覚悟するんだねえ? 泣き喚く年上女性を見捨てることが出来るなら辞めてもいいけど、君にそれが出来るかな!?」


 そう言ってサリアさんは「はーはっは!」と高笑いをする。

 これは認めて貰えたってことでいいの……かな?


「この時計塔には裏口がある、というか勝手に私が作った。いちいち魔法錠を外すのも面倒だろうし次からはそっちから入るといい」


 そう言ってサリアさんは時計塔の裏口を教えてくれる。

 裏手の壁に扉が隠してあるみたいだ、何だか秘密基地みたいでワクワクする。


研究所ラボには好きな時に顔を出したまえ。君も忙しいだろう、毎日来いとは言わないが週に一回くらいは顔を出したまえ。調べたいことは山ほどあるからねえ……君のその体質の謎、とか」


 サリアさんに呪いのことは話していないけど、僕が特殊な体質であることは話した。

 そもそも僕も自分が何で精霊を見ることが出来るのか分かっていない。呪いが原因なのか、それとも別の要因があるのか。

 サリアさんの協力があればその理由を知ることが出来るかもしれない。


「はい。出来る限りこちらには来ようと思います。あ、その時僕の友達も来たがるかもしれないんですけど……大丈夫ですか?」


 そう尋ねるとサリアさんは露骨に嫌そうな顔をする。

 そしてしばらく考え込み……言う。


「ん〜〜〜。正直とっても嫌だが……いいとしよう。君の友人なら嫌な子じゃないだろうしね」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 正直断られると思ったけど、なんと了承してくれた。

 クリスあたりは絶対来たがると思ったからホッとした。


「なあに『シェリー』のことを教えてくれた礼さ。正直研究が行き詰まってた所なんだ。君が来てくれたのは渡りに船、砂漠にオアシスだったのだよ。これくらい許容するさ」


 シェリーというのはサリアさんに憑いているクラゲの精霊の名前だ。

 クラゲの精霊は話すことが出来ないみたいなのでサリアさんがさっき名付けた。どうやらシェリーは気に入ってくれたみたいでぷるぷると震えていた。


「それではまた近いうちに来ます。今日はありがとうございました」

「こちらこそ良い時間をありがとう後輩くん。君に精霊の導きがあらんことを」


 そう言って先輩は胸の前で小さく十字を切る。

 確かこれは、昔よく使われていた旅人を送り出す時にやる言葉と動作だ。今の時代では田舎くらいでしか使われないだろうけど、精霊を研究する僕たちにはうってつけのものかもしれないね。


「ありがとうございます。先輩に導きがあらんことを」


 僕も同じように小さく十字を切り、研究所ラボを後にするのだった。



◇ ◇ ◇



 夕暮れ時、僕は一人で帰宅していた。

 少し遅くなっちゃったけど、夕飯には間に合いそうだ。よかったよかった。


「……ん?」


 校門に誰か人が立っている。

 黒い外套と帽子の人物、その人が僕のことをジッと見ていた。


 誰だろう。少し警戒しながら校門へと近づく。


「一体誰だろ……って、ああっ!」


 残り数メートルといったところで、その人が帽子を外して。そのおかげで僕はその人の正体に気がついた。


「久しいなカルスよ。どうやら元気でやっているようじゃな」


 僕の師匠であり光の魔法使いゴーリィ=シグマイエンは、楽しげに笑みを浮かべながらそう言うのだった。


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・みんなで埋めよう!精霊図鑑!(レア度付き)

[R]

賢き触手 シェリー[水海月]

ふよふよと宙を浮く、青い半透明のくらげ。結構大きい。

名前を持っていなかったのでサリアが名付けた。

意思があるのかよく分からないが、常にサリアのそばにいてその体によく巻き付いている。

性別はメス。毒魔法も使うことが出来る。

生前子を残すことの出来なかったその精霊は、ある日一人の赤子と出会った。その赤子の屈託のない笑みに今まで感じたことのない感情を抱いた精霊は、彼女にくっつきその成長を隣で見守り続けた。

そしてその子に危機が訪れた時、その身が消滅する危険も厭わず彼女を守りぬいて見せた。

見返りのない愛。しかしそれは確かに彼女に伝わっており、その後の人生を大きく変えることとなった。

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