第14話 幼女の試練
サリアと名乗った栗毛の女の子は、不思議な子だった。
僕よりずっと歳下に見えるのになんだか大人びて見える。落ち着いていて、すごい知的って感じだ。
「えっと……君が『時計塔の引きこもり』さん、なんですか?」
「ふむ、私はそう名乗った記憶はないけど、私のことをそう呼んでいる生徒がいるのは確かだよ」
どうやらこの子が僕の探していた人物みたいだ。
よく見ればダボダボの白衣の下に学園の制服を着ている。この子は本当に魔法学園の生徒みたいだ。
……でも疑問はまだ残る。
魔法学園は十五歳にならないと入学出来ないはず。この子は明らかにその年齢に達していないじゃないか。
「どうやら私の年齢を不審に思っているようだね」
「え、顔に出てましたか?」
「まあ私を見たらそう疑問に思うのも無理はないだろうさ。なんでこんなに幼く天才的な頭脳の持ち主が時計塔にこもっているのだろうかとね」
「はあ……」
後半は特に思ってなかったけど黙っておこう。
「魔法錠を解きここまで来た生徒は初めてだ。教えてあげてもいいが……今は大事な実験の途中。悪いがお引き取り願おうか」
サリアさんはそう言うと踵を返して部屋の奥に行ってしまう。
慌ててそれを追おうとすると、僕は額を硬い何かにぶつけてしまう。
「いだっ」
額をさすりながら正面を見る。
でもそこには何もなかった。
「ん……?」
ゆっくり手を前に出す。するとそこには魔法で出来た壁があった。
目を凝らせば見えるけど、透明度がかなり高くて気がつかなかった。
軽く叩いてみるとコンコン、と硬質的な音がする。結構硬そうだ。
「壊そうなどとは考えないでくれよ? それは特殊な障壁、ちょっとやそっとじゃ壊せない。特に魔法に対する防御力は随一、怪我をする前に帰ってくれたまえ」
見れば障壁の内側で大きめな魔道具がブウゥン……と音を立てて稼働している。これが障壁を作ってるんだ。
「あの、どうしてもお話を聞くことは出来ませんか?」
「ふぅん。そんなに天才少女である私の話を聞きたいかね。いいだろう、その障壁を壊すことが出来たなら話を聞いてあげようじゃないか。おっと、魔法はぶつけないでくれよ? そんなもの使ったら時計塔が崩れてしまうかもしれないからね」
サリアさんはそう提案してくる。
そう言えば僕が折れると思っているみたいだけど、それは見当違いだ。
「分かりました。それでいいんですね?」
「へ?」
ぽかんとする彼女を他所に僕は拳を固く握りしめ……思い切り障壁に叩きつけた。
「せいっ」
ばきゃ、という嫌な音と共にひび割れる障壁と僕の拳。それを見て、サリアさんは「ひいっ!?」悲鳴を上げる。
「き、きみぃ!? 何やってるんだい!? ち、血が出てるじゃないか!?」
「ああ、これくらい軽傷なんで大丈夫ですよ」
うん。骨も神経もちゃんと繋がってるね。
「ようしもう一発……」
「ちょ、ちょちょちょっと待ったぁ! 分かった! 分かったからストップ!」
何やら慌てた様子でサリアさんが叫ぶ。
どしたんだろうと思っていると障壁が消える。もういいのかな?
「まったく。無茶な要求をすれば帰るかと思ったけど……まさか自分の手を砕いてまで突破しようとするとはね。大人しい顔して中々ネジの飛んだ子だよ君は」
変わってる子扱いされてしまった。
少し不本意だけど、認めて貰えた……のかな?
黙って部屋の奥に進んでいくサリアさんの後をついて行く。
そして部屋の奥に配置された高めの椅子に彼女はピョンと飛び乗る。
「よし。これで会話しやすくなったね」
ようやくサリアさんと視線が合う。
彼女はその気だるげな目を僕に向けながら口を開く。
「さて、改めて挨拶をしようじゃないか。私はサリア・ルルミット。ここ時計塔研究所の主人をしている」
「僕はカルス・レイドと言います。学年は1ーAです」
「ほう、やはり新入生かい。では私の一学年下と言うことになるねえ。私は2ーAに所属している」
「あの。ずっと気になってたんですけど……サリアさんって歳下、ですよね? それとも歳を取るのが遅い種族だったりしますか?」
この世界にはいろんな種族が生活している。
サリアさんはぱっと見た感じ僕と同じ人間にしか見えないけど、もしかしたら他種族の可能性も高い。
「いんや、私は正真正銘人間さ」
「え、そうなんですか? じゃあ何で二年生なのにそのような姿なんですか?」
「それを話すと少し長くなるが……まあよいだろう。こんな辺鄙な所まで来てくれた礼だ。珈琲でも飲みながらゆっくり語ろうではないか」
そう言ってサリアさんは珈琲を淹れ始める……実験器具で。
アルコールランプでお湯を沸かして、ビーカーの中に珈琲をドリップしている。匂いは珈琲だけど見た目は完全に実験だ。
「ほら飲むといい、変な薬品は入れてないから安心したまえ」
「は、はい。ありがとうございます」
少し抵抗はあるけど、僕はそれを豪快に飲む。
「あ……おいしい」
「だろう? 料理は出来ないけど珈琲にはうるさいんだ私は」
見た目は最悪だけど、味は最高だった。深いコクがあるけどどこか優しい、そんな味だ。見た目は最悪だけど。
「さて、どこから話したものかな。まずは四年前、私が魔法学園に入学した時のことから話そうか」
僕はそこで珈琲を噴き出してしまう。
「よ、四年前っ!?」
「ああ、間違いない。三年前でも五年前でもないよ」
「でもサリアさんは二年生なんですよね? 計算が合わないじゃないですか!」
僕のその質問にサリアさんは謎に得意げに答える。
「簡単な話さ……私は二回、留年しているのだよ」
「……もう何が何やら」
なんとこの幼女先輩、ダブるどころかトリプるっていた。めちゃくちゃだよ……
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