第12話 とある昼休みにて

 学園が始まってから早いもので一週間が経った。

 師匠から魔法の知識を詰め込まれていた僕は、Aクラスの授業にもそれほど苦戦することなくついていくことが出来ていた。


 でも友人のジャックはそうではないみたいで、


「あ〜〜、今日の授業もちんぷんかんぷんだったぜ」


 そう不貞腐れながら彼は購買で買ったサンドイッチを食べていた。

 今僕たちは学園内の広い中庭のテーブルに座って昼食を食べている。僕とジャックは向かい合うように座っていて、僕の左隣りにはクリスが座っている。


「まあでもさっきのは難しかったよね。錬金術の話も合わさってたし理解できなくても無理ないよ」

「だよな! だよな! やっぱりカルスは話が分かる奴ぜ! あ、そのおかず貰っていい?」

「それは駄目」


 それはそれ、これはこれ。隙をつけば貰えると思ったら大間違いだ。

 シズクお手製のお弁当をそう簡単に渡しはしない。


 数日前に購買で何も買うことができなかったジャックに少し分けてあげたらすっかり気に入ってしまった。それ以降ハイエナのように狙われている。

 まあ美味しいから気持ちは分かるけど、お昼ごはんは僕の楽しみでもある。いくら友達でもタダでは上げられないよ。


「ちぇー、そう簡単にはいかないか。……あ、そうだ。じゃあよ、とっておきの情報があるんだけどそれと交換ならどうだ?」

「情報?」


 ジャックは情報通で、学園内のことを色々と知っている。

 クラスのパワーバランスや有名生徒の交友関係。先生に見つかりづらいサボりスポットや、学園七不思議などその情報は幅広い。

 その情報を集める情熱を少しでも勉強に活かせればいいのにと思わなくもないけど、人には得意不得意があるし仕方ないか。


「情報ねえ。まあ確かに気になるけど、それの対価は勉強を見てあげることの方がいいんじゃないの?」

「ぐっ、確かにそりゃそうだ……カルス! 面白いこと教えるので勉強を見てくれ!」


 ジャックはベンチの上で綺麗な土下座を披露する。

 そんなことしなくても勉強ぐらいいくらでも見てあげたけど、面白いことは知りたいのでその提案を受け入れる。


「で、何なの面白い情報って」

「ああ。学園には大きな時計塔があるだろ? 実はあの中に一人の魔法使いが住み着いてるらしいんだ」


 魔法学園の中には立派な時計塔があって、四時間おきに鐘を鳴らして時間を教えてくれる。

 あの中は確かに気になっていて、僕も一回近くに寄ってみたけど……


「確か鍵がかかってなかった? 厳重なやつ。入っちゃ駄目なんじゃないの?」

「それがあの鍵、学園が付けたやつじゃないみたいだぜ? とある生徒が中に引きこもるためにかけたらしい」

「え、一人の生徒が中を占領してるってこと!? それって問題にならないの?」

「それがその生徒わけありみたいでな。先生も強くは言えないらしい。時計塔の中に大した物は置いてないから、そのまんま放っとかれてるらしいぜ」

「へえ……それは気になるね」

「だろ? 生徒の間では『時計塔の引きこもり』って呼ばれてるらしい。興味があるなら行ってみたらどうだ?」


 ジャックにそう言われなくても僕の心はもう決まっていた。

 先生も口出し出来ない生徒、いったいどんな人なんだろう。ぜひ会ってみたい……!


「じゃ、そういうことでおかずひとつ貰うぜ」

「あっ! 何勝手に食べてんのさ! もう勉強教えないからね!」

「ちょ、それは勘弁してくれよ! ほら、俺のパン一個やるからさ!」


 やいのやいの言い合う僕とジャック。

 そんな僕たちを横目に見ながら、クリスは「はあ。平和ね」と呆れ気味に呟いていた。

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