第7話 初めての寄り道
「お前カルスやり過ぎだぞ!」
面接が終わってすぐ、建物から出た僕は兄弟子のマクベルさんにそう怒鳴られた。
推薦組の面接は一旦終わって休憩中らしい。まあ一人気絶させちゃったしそうなるか。
「えー、でもマクベルさんもやれって言ってたじゃん」
「誰があそこまでせいと言った。……はあ、まあでも私の溜飲も下がりはした。あの野郎何も知らないのにゴーリィ様を馬鹿にしたからな。ざまあみろってんだ」
例え協会から追放されても、マクベルさんは師匠を慕っていてたまに会いに行っている。師匠に対する想いは強いんだ。
「ぷふーっ! 見た? あの泡吹いた顔! ほんとケッサクだったわ!」
一方クリスはかなりツボに入ったみたいでずっと笑いっぱなしだった。ああもう他の人もどうしたんだろうと見てるし恥ずかしいなあ。
「でもどうしよう。もしあれで怒らせちゃって入学取り消しみたいになっちゃったら」
「安心しろ。そんなことは私がさせない。それに他の試験官たちは好印象だったはずだ、
マクベルさんがそういうなら大丈夫なのかな。
そうだ、あのことも聞いておこう。
「そういえばこの学園にもう一人光魔法の使い手がいるって聞いたんですけどあれって」
「ああ、聖女様のことか。去年学園に入ったんだよ、さる国の聖女様がな。彼女がちやほやされてるから、あの試験官も光魔法が気に食わなかったんだろうな」
「へえ、そんな人がいるんだ。会って話してみたいな」
入学する楽しみがまた増えた。
「えーと……じゃあもう今日は帰ろうかな?」
確か面接の結果が出るのは明日。今日はもうやることはないはずだ。
どこか寄り道しながら帰ろうかな、と歩き出すと一人の人物が僕の前に立ち塞がる。
「君は……」
その人は僕と一緒に面接を受けたジャックだった。彼は神妙な顔をしながら僕のことを睨みつけている。もしかしてさっきのことで何か怒らせちゃったのかな? だとしたら悪いことをしちゃったね。
「あの、なにか……」
「おいお前!」
急にガシッと肩をつかまれる。
そして真剣な目で僕を見ながら、ジャックは言う。
「お前……すっげえな!」
「……へ?」
怒られるのかと思ったら褒められた。
その後もジャックは口早に話す。
「いやー俺も一目見た時からカルスはただものじゃないと思ってたんだよなあ。それにあのいけすかねえ試験官にぎゃふんと言わせる度胸、最高だったぜ!」
「ど、どうも」
テンション高く絡んでくるジャック。
どうやら意図せず気に入られてしまったみたいだ。
「俺もカルスも、そしてそこにいる赤髪の奴も、今日の面接を見る限りみんなAクラスになれてるだろう。つまり俺たちはクラスメイトってわけだ。よろしく頼むぜカルス」
「クラスメイト……か。いいねそれ。僕の方こそよろしく。
初めて出来たクラスメイト(仮)と握手する。
ジャックは少し騒がしいけどいい人に見える。仲良くなれるといいけど。
「それじゃあ俺たちの友情を祝ってパーっと飯でも食おうぜ! 王都の旨い飯屋は調べてるんだ!」
「いいね、僕まだ全然外食してないんだ」
「初めてだったら金の林檎亭とか良さそうだな。あそこの肉料理は絶品だぜ」
ジャックは情報通らしくて色々な店を教えてくれた。王都出身のはずじゃないのにこんなに詳しいなんて中々やり手だ。
「ちょっとあんたら、何二人で盛り上がってんのよ! 私もちゃんと連れて行きなさいよ!?」
ジャックと盛り上がっているとクリスが割り込んできて僕の首に腕を回してくる。
結構ぐいぐい来るクリスはボディタッチも激しい。今もほのかにいい匂いがしてきて何とも思春期である僕には苦しい状況だ。
「よっしゃじゃあ三人で行くか! こりゃあ楽しくなりそうだぜ!」
お店を知っているジャックに導かれ、僕たちは『金の林檎亭』に行って美味しいご飯を食べながら楽しくおしゃべりした。
初めての友達の外食、それは楽しいもので僕はついつい時間も忘れて楽しんだ。
ご飯を食べた後もジャックおすすめのスポットを数カ所回っていたらすっかり辺りも暗くなってしまっていた。楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうね。
「今日は楽しかったよ。じゃあまた学園で」
そう言って二人と別れ、家に帰ろうとした瞬間、僕はとんでもないことに気づいた。
「そういえば今日は早めに帰るってシズクに言ったような……」
血の気が引く。滅多に怒らないシズクだけど怒らせたらめちゃくちゃ怖いんだ。
怒鳴るわけじゃないけど、静かにこんこんと怒られる。胃がきゅうっと縮むんだよなぁあれ。
「急いで帰らなきゃ……!」
魔法で肉体を強化させた僕は、暗くなった王都を爆走して帰るのだっ
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