第6話 精霊の指眼鏡

 三つの属性を使えるジャック。彼の周りには確かに三人の精霊がいた。

 土と木は近い属性だから、どっちも使える精霊もいるんだけど、ちゃんと三属性とも別の精霊から力を借りてるみたいだ。凄いね。


 ジャックの肩には小さなモグラがぐでっと横になっている。その周辺を魚の精霊がふよふよと浮遊していて、頭には緑色の鳥が座っている。

 三人の精霊は喧嘩する様子なんて全くない。それどころかたまに会話していてとても仲が良さそうだ。こんな風に共生することもあるんだ。


「ふむ、それで結構。見事な魔法をありがとうジャックくん。君がこの魔法学園で活躍できるのを祈ってるよ」

「あ、はい! ありがとうございます!」


 無事自分の番が終わったジャックはほっと胸をなで下ろしている。

 さて、次はクリスか一体どんな面接になるんだろう。


「次はクリス君。君の学園に来た理由を教えてくれるかな?」

「はい。私はここで魔法を更に鍛え、騎士として更に強くなるために来ました」


 おっかなびっくり答えてたジャックとは対照的に、クリスは堂々と受け答えしていた。流石だ。

 クリスは「それと……」と前置くと、言葉を付け加える。


「大切な約束を果たすために魔法学園に来ました」


 そう言うと、僕の方に小さくウィンクしてきた。

 なんのことか分からない試験官さんたちは首を傾げている。うう、恥ずかしい……


「ええと、じゃあ次は何か魔法を見せてもらえるかな?」

「はい、分かりました」


 そう言ってクリスは腰に下げていた剣を抜き放つ。その所作は洗練されていて、とっても格好良い。


「いきます」


 クリスは剣の刀身に左手の指を添える。そして魔力を指先に集中させる。


炎の武器フ・アルム


 瞬間、部屋を凄い熱気が包み込む。まるで真夏日になったようなその暑さに汗が噴き出てしまう。前にあった時も魔法は少し使えるみたいだったけど、こんなに強くなってたなんて!


 炎の魔力が込められたクリスの剣は真っ赤に赤熱している。あれで斬られたら流石の僕でも痛そうだ。この五年間頑張ってたのは僕だけじゃなかったみたいだね。


「そ、そこまででいい! 充分だ!」


 試験官の人はたまらずクリスの魔法を止める。あれ以上やってたら熱中症を起こす人も出ちゃうからね。


「なるほどたいした魔力だ。剣の腕もお父上のお墨付きとあれば間違い無いだろう。では最後に……カルス君。君の学園に入る理由を教えてくれるか?」

「はい。僕は色んな魔法を学びたいです」

「なるほど、いい目標だ。では次に何か魔法を見せて貰えるかな?」

「分かりました」


 うーん、何にしよう。

 ここで凄いことしても特に意味はないから軽くにしようかな。


光在れライ・ロ


 中くらい大きさの光の玉が現れて周囲を照らす。

 それを見た試験官の人たちは「おお……」と声を漏らす。光魔法は珍しいらしいから初めて見たのかな?


 まあでもこれくらいでい……


「これが光魔法、ですか。なんか他の魔法と比べても特別って感じはしませんねえ」


 今まで一言も発してなかった男の試験官がそんなことを言う。

 なんだこの失礼な人は?


「確か少し前に協会を追われた賢者も光魔法でしたよね? いくら珍しいからと言って無条件でAクラスにするのは如何なものかと思いますよ私は」


 ……カッチーンと来てしまった。

 光魔法だけじゃなく師匠のことまで悪く言うなんて。兄弟弟子のマクベルさんを見ると、彼も怒っているみたいで、僕と目を合わせると(おい! やってしまえ!)と合図してきた。


 ……よし、兄弟子の許可も頂いた事だしやってしまおう。


「これだけじゃ不満の方もいるようなので、もう一つ披露させて頂きたいと思います」

「む、そうか。すまないね」


 真ん中に座る試験官さんは、無礼な試験官の人のことを謝ってくれる。


「では光魔法の凄さが分からない方がいらっしゃるようなので、もう少しお時間を頂けますか?」


 ふう、と息を吐き集中。

 普段はキツく締めている魔力の栓をゆっくりと開く。すると体の奥底に閉じ込めていた魔力がゆっくりと体外に漏れ出る。


 まだだ、もっと貯めろ。もっと……もっと。


「……よし。これくらいかな」


 限界まで貯めたその魔力を、僕は一気に体から放出する。

 目標はケチをつけてきた試験官。くらえ!


「はっ!」


 一瞬で部屋中に魔力が充満する。

 すると部屋の壁や床ににピシピシッ! と亀裂が入り、試験官の人たちは椅子から転げ落ちる。

 莫大な魔力は魔法に変換しなくても人や物に影響を与える。魔力に敏感な魔法使いであれば急に水をかけられたような衝撃を受けるだろう。


「こ、こんな強い魔力を持った生徒、初めてだ……!」

「しかしこれは魔法ではないのでは?」

「それより壁をどうするんだ!」


 慌てふためく試験官の人たち。

 そんな彼らに僕はある魔法を見せる。


光の治癒ラ・ヒール


 そう魔法唱えるとヒビの入った壁や床がみるみる内にっていく。その様子を見た試験官の人たちは「おお……」とどよめく。


「いやはや、話には知っていましたが物の修復まで出来るとは。やはり光魔法は凄い……!」


 水魔法や木魔法にも回復魔法はある。しかし命のない物まで治すことが出来るのは光魔法だけだ。その効果は唯一無二、代用は効かない。

 光魔法を馬鹿にした試験官もこれを見て「ぐにに……」とそれ以上の悪態はつけなくなっていた。ふふん、いい気味だ。


「素晴らしいよカルス君。君の力は本物だ。光魔法の使い手が二人・・も我が校に来てくれるとは前代未聞だ。その力存分に我が校で磨き上げてくれたまえ」

「え、あ、はい!」


 二人……?

 その言葉に気を取られながらも、僕は面接部屋を後にする。

 後で聞いてみなくちゃ。

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