第2話 思わぬ再会

 次の日も兄さんが見つけてくれた家を三軒見て回ったけど、結局最初の家がいいとなったので最初に家に住むことに決めた。

 それでもまだ時間があったので僕たちは別れて細かい物を買いに街に繰り出した。


 シズクは調味料系を揃えたいと言っていた。王都なら色んなのが売ってるだろうしご飯も期待できるね。


 そして僕が探してるのは『本』だ。

 屋敷にも本はたくさんあったけど、やっぱり古いのが多い。王都には最新の本も並んでるのでついついあれもこれも買ってしまいそうになる。でも、


「う゛、高い」


 僕が欲しがるような分厚い本はどれも高い。一応お小遣いは貰ってるけどそれほどたくさんは貰っていないのだ。

 正直ねだればねだるだけ貰えるとは思うけど、それじゃ駄目だと思って常識的な額にとどめてある。足りないと思った分は自分で稼いでみせる。


「……とはいえ、最初の内はこの額でやりくりしないとなあ」


 これは金銭感覚を身につける特訓でもあるのだ。なにせ自分で物を買ったことがなかったからね。


「ううん……あれとこれは買って、錬金の本は諦めるかなあ。いや、でもあれは買っておきたいし……」


 うんうん悩みながら街の中を歩く。

 あ、そうだ。確かここら辺には古本屋があったはず。そこなら欲しい本が安く手に入るかもしれない。


「よし、早速行ってみよう!」


 目的地に向けて早足で歩く。

 するとその途中で嫌なものを見つけてしまう。


「ねえ君、今ヒマ?」

「俺たちと遊ぼーよ」


 大柄の男二人が一人の女の子に絡んでいた。

 後ろ姿しか見えないけど女の子は嫌そうだ。他の人たちは見てみぬふりをしてるけど……放っておけない。

 シリウス兄さんにも困ってる女性を見捨てる男はクソだと教わってるしね。


「ちょっと。その人困ってるじゃないですか」

「ああ? なんだお前は?」


 男は睨んでくるけど、怖くない。

 ガチ稽古中のダミアン兄さんと比べたらこんなのどうってことないね。


 男から目を離して女の子の方に視線を移すと、ちょうどその子が振り返って僕の方を見る。すると、


「……誰かと思えばカルスじゃない。大きくなったから一瞬誰だか分からなかったわ」


 燃えるような赤い髪と、強気な目。そして自信満々な佇まい。僕はその子に見覚えがあった。


「もしかして、クリス?」

「正解♪ 久しぶりねっ」


 五年ぶりに会ったクリスはとっても綺麗になっていた。身長は伸び、胸も大きくなっている。

 昔の面影も残ってるけど、なんだか凄い大人びて見える。まさか五年でこんなに変わってるなんて……!


「おい、ボケっとしてんじゃ……」


 無視されたのが癪に触ったのか、男の一人が手を伸ばしてくる。僕はそれを反射的につかみ、地面に投げ飛ばす。


「かひゅ」


兄さん直伝の投げ技をくらった男はか細く声を出すと意識を失う。威力は抑えたから数分もすれば回復すると思う、たぶん。


「お前何しやがる!」


 相棒をやられ、もう一人の男がかかってくるけどその前にクリスが立ち塞がる。


「あんたこそ折角の再会に水を差すんじゃないわよ」


 目にも止まらぬ鋭い蹴りが男の腹に命中し、スパァン! と物凄い音が鳴る。彼女の蹴りをまともに食らった男は思い切り吹き飛び、近くの壁にぶつかってその場に崩れる。うわー……あれは痛そうだ。


「ふう、思わぬ邪魔が入ったわね」

「お疲れクリス、会えて嬉しいよ。ところでなんでこんな所にいるの?」


 真っ先にその質問をする。

 王都に来てこんなにすぐにクリスに会うなんて出来過ぎだ。


「なんで……って、そりゃあんた。手紙で魔法学園に行くって言ってたじゃない」

「へ? ああそういえば言ってたね。でもそれがどうしたの?」


 来ると知っててもわざわざ王都に来る理由は分からない。顔を合わせるだけなら屋敷に来ればいいのに。


「はあ。相変わらずにぶいわね。いい? 教えてあげるからちゃんと聞きなさい」


 そう前置いたクリスは驚きの一言を言う。


「私も入学するために来たのよ、魔法学園に、ね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る