第4章 広がる世界
第1話 王都ラクスサス
がたんごとん、がたんごとん。
小気味よく揺れる馬車に身を委ねながら、僕は窓から外の景色を眺める。
このずっと一緒だったホバの森ともお別れだ。外に出たいとずっと思ってたけど、いざお別れとなると寂しいね。
「カルス様、お茶はいかがですか?」
「ありがとう。もらうよ」
シズクから金属製の水筒を貰い、口をつける。
よく冷えたお茶だ、美味しい。屋敷を出てから時間が経ってるけどまだキンキンに冷えている。シズクが魔法で冷やしていてくれたのかな?
「ぷは、ありがと。それにしてもここら辺は他の馬車は通ってないんだね」
「ここの森一帯は王家の私有地となっております。関係者以外の立ち入りは禁止されているのです」
「へえ、そうだったんだ」
屋敷があったホバの森は、何の変哲もない普通の森であり、貴重な資源などはない。更に王家の私有地ともなれば森に侵入しようとする輩は現れないだろう。僕みたいなのを隠しておくにはうってつけってわけだ。
「お、森を抜けたね。わ、すごい景色だ……!」
目の前に広がるのは広い平原。
これがレディヴィア王国中央部に広がる『ルアゴ大平原』かあ。本で見たことはあるけど、実際に見ると迫力が全然違うや。
平原には南イリス川という大陸で二番目に長い川が流れている。その川にかかった橋を渡り、僕たちはどんどん北上していく。
目指すは王都ラクスサス。そこにある魔法学園レミティシアだ。
魔法学園はこの大陸でも最大規模の魔法使い育成機関だ。なので王国以外の国からもたくさんの魔法使い志望が集まる。
そして魔法学園で優秀な成績を残して卒業できた生徒は、そのまま魔術協会に入ることが出来る。協会に入るには本来厳しい審査を通過しなくちゃいけないからそれをパス出来るのは大きい……らしい。
「楽しみだなあ……」
不安なことももちろんある。
でもそれ以上に新生活への楽しみが今は大きい。一体どんな学生生活が僕を待ってるんだろう。
◇ ◇ ◇
馬車で移動すること半日。僕たちの馬車はとうとう王都ラクスサスに到着した。
王都の中には見たこともないほどたくさんの人がいて僕は興奮してしまう。
「うっわ、人が多いとは聞いてたけどこんなに多いとは思わなかったよ。ねえ、あれって何のお店かな!?」
見たことのない店、商品、食べ物。王都は刺激で満ち溢れていた。本当なら着いてすぐに住む家を見に行くはずだったのについつい寄り道をしてしまっていた。
「カルス様、そろそろ……」
「へ、ああ。もうこんな時間か」
気づけば日が傾いて夕方になっていた。この時間になると流石に外を歩く人も減ってくるね。
「えーと、家の候補はシリウス兄さんが見つけてくれてるんだよね?」
「はい。今日はひとまずそちらに泊まり、気に入らなければ他の候補を明日見にいって欲しいとのことです」
「そっか。じゃあさっそく向かおうか」
地図を頼りに僕たちは王都を歩く。
お目当ての家は王都南東部の居住区にあった。この場所は学園に近いから通学も楽そうだ。
「えーっと……地図に書いてある家は……これかな」
見つけたのは小綺麗な一軒家だった。そんなに大きくはないけど二人で住むなら十分な大きさだ。
さっそく預かっていた鍵を使って中に入る。最新式の魔法錠だ、これなら泥棒に入られることもないね。
「おじゃましまーす……おお」
広いリビングが僕を出迎えてくれた。部屋は……四つだね、これだけあればお客さんが来ても対応出来そうだ。
「中々いい感じだね。むしろ学生の家にしては豪華すぎるくらいだ」
「キッチンも広くて良いですね。腕が鳴ります」
家の隅から隅まで見て回ったけど、不満なところは一切なかった。もうこれで決まりでいいかな。
「とはいえ兄さんが見繕ってくれたんだから一応見には行こっか」
「かしこまりました。ではそのように予定を組ませて頂きます」
細かいスケジュールはシズクに任せ、僕は自分の部屋を決めてそこに置いたあったベッドに横になる。
ふわふわで寝心地がいい、屋敷のベッドとそっくりだ。これなら気持ちよく眠れそうだ。
「きっと兄さんが気を利かせてくれたんだろうなあ……」
ひとり立ちするんだと王都には来たけど、結局僕は色んな人の力を借りてしまっている。いつかちゃんと恩返ししないと、と考えていると段々うとうとして来てしまう。
そういえば今日も移動続きで疲れたな……でも明日の準備もしないと……と考えながら、僕は夢の世界へ旅立ってしまうのだった。
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