第17話 赤子の手をひねる

「予備も含めて……三人ほどいれば良いか」


 戸惑う彼らをよそに、エミリアは懐から紙を三枚取り出す。

 魔法陣が描かれた小さな正方形の紙。彼はそれに魔力を通し、焼く。するとその中に封じられていた力が解放される。


「簡易魔法陣『謀反者の封獄』」


 突如刺客の三人の体に魔法陣が浮かび、そこから魔法の鎖が生えてくる。


「な、なんだこれは!?」


 鎖は瞬く間に刺客の体を縛り上げてしまう。

 いくら力を込めても鎖はびくともせず、その三人はぐるぐる巻きにされた地面にみっともなく転がる。


「幸運な君たちには生きたまま一緒に来てもらうよ。親玉が誰なのか聞かなきゃいけないからね」


 そんなの死んでもごめんだと、捕らわれた一人が舌を噛もうとするが鎖が口に巻きつきそれを阻害する。

 エミリアの使ったこの魔術『謀反者の封獄』は、裏切り者にしか使えないという縛りを課す代わりに、圧倒的な拘束能力を持っている。

 そして捕らわれている人間はあらゆる攻撃から守られる効果もある、自害も例外ではない。


「さて、この戦いにも飽きてきた所だ。そろそろ終わりにしよう」


 エミリアは大きく息を吸うと……紫色の吐息をその場にばら撒く。


「な、なんだこれは?」

「毒か!? 吸ったら危な……う」


 顔を紫色にして、刺客たちはその場に倒れていく。

 そして一分も持たずに体中の穴から血を流し絶命していく。封獄に守られている者たちは仲間が死んでいくのをただ見ていることしか出来なかった。


「さすが紫黒草の毒、すごい効果だ」


 エミリアはそう興味なさげに言いながら。捕らえた刺客をひょいと持ち上げてアレグロのもとに戻る。


「帰るぞ。こいつらを馬車に積むのを手伝え」

「ひゃい!」


 目の前にドサリと置かれる三人の刺客を見て、アレグロは悲鳴を上げる。

 三人とも怒りに満ちた目でエミリアとアレグロを睨みつけている。ビビるのも当然だ。


「し、しかし会長。馬車は壊れて……」

「何言ってるんだ。そこにあるだろ?」

「そこって……ええ!?」


 見ればいつの間にか新品同様の馬車がそこに鎮座していた。ちゃんと馬も繋がっている。

 意味の分からない状況だが、アレグロはそれを考えないことにした。

 会長は理解を超える存在、であるなら理解しようとしなければいい。そうすれば秘書を続け、凡愚の自分でも破格の給金を得ることが出来るのだから。


「ごめんなさいねー。これもお仕事なのよ」


 睨みつける刺客たちを次々と馬車に詰め込む。

 罪悪感はある。彼らも引けなかったんだろう。会長に苦しい思いをさせられていたのだろう。


 しかし……自分には関係ない話だ。

 彼らの命と自分の生活、天秤にかけて計るまでもないからだ。


「よいしょ……と。終わりましたよ会長ー」

「ご苦労。それじゃあ帰るとしよう」


 馬車は走り出す。

 まるで何事もなかったかのように――――

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