第8話 少女の独学
《シシィ目線》
お屋敷に来てからもう一週間が経ちました。
最初ゴーリィさまに『回復魔法を教えて欲しい少年がいるんじゃ』と文を頂いた時はとても驚き、緊張しました。
だって私は今まで友人などおらず、一人部屋の中でずっと魔法を学んでました。
最初の頃こそ先生と呼べる方もいましたが、光魔法を教えられる方は少なく、すぐに私に魔法を教えられる方はいなくなってしまいました。
なので一人で、孤独に私は本を読み、魔法を学んでました。
ただ一人私の従者であり騎士のラーヤだけはお話が出来ましたが、彼女は文より武、魔法より剣といったお人なのであまり共通の話題がありませんでした。
なのでカルスさまとの毎日は、とても楽しく刺激的なものでした。
初めて話す同年代の方、しかも異性。私は大変緊張しましたがカルスさまは優しく、しどろもどろな私に優しく、根気強く付き合ってくださいました。
なので数日もしたら私はカルスさまと目を見てお話出来るようになりました。これはすごいことです。私史上初めての快挙です。
カルスさまは覚える速度もが速く、私が教えたことをすごい速さで覚えました。そのおかげで私はたくさんのことを彼とお話しました。
魔法のこと、医学のこと、薬草のことなど、子どもにはおそらく似つかわしくない、難しいことを、たくさんお話しました。
今までは本から受け取り頭の中で反芻することしか出来なかった私にとってそれは素晴らしい時間でした。他の方が感じたことを聞き、それに対し私の知見を述べる。そして更にそれを聞いたカルスさまが違う意見を言う。
連鎖するように広がる知識、思考。この時間が永遠に続いて欲しいとすら思いました。
そんなカルスさまですが一つだけ、困ったことがあります。
それは会うたびに私の容姿を褒めることです。
私は自分の容姿に自身がないので前髪を伸ばし眼を隠しているのですが、この前なんかその前髪をよけて「きれいな眼をしてるのに隠すなんてもったいないよ」なんておっしゃいました。私は恥ずかしくて恥ずかしくて顔から火が出るかと思いました……!
日常的にも「おはようシシィ、今日もかわいいね」とか「今日も金色の髪がきれいだね」など思い出すだけで顔が熱くなるほどのことをおっしゃります。
その度私は情けない悲鳴を上げ、飛び退いてしまいます。
カルスさまの赤い瞳もかっこいいですよ……ぐらい言えるほど、私の心が強ければいいのですが。奥手で臆病者の私はそれが出来ません。
よくこんなキザなセリフが言えるものだと感心します。誰か女誑しの師匠でもいるのでしょうか?
……とまあ、カルスさまは本当に変わったお方です。
本当に変わった――――私の、初めての友達。
生きて欲しい。苦しまないで欲しい。
私は今まで培ってきた技術と知恵がこの時にあったのだと思い懸命に魔法を教えました。
しかし……結果は実りませんでした。
私の魔法で痛みこそ抑えられているものの、呪いは少しづつカルスさまを蝕んでいきます。痩せ細り、立つのすら困難になっていくカルスさまを見るのは……つらい。
要領のいいカルスさまがここまで回復魔法の習得に苦戦するのは、私には少し変に思えました。何か理由があるのではないかと、そう思い彼を注意深く観察した私は、あることに気がつきました。
多分私の仮説は正しい……と思います。
でもそれは伝えてしまうと逆に足枷となってしまうかもしれないことでした。
私は……悩みました。
悩んで悩んで、そして決断しました。
たとえそれが彼と私を苦しめることになろうとも、実行するべきだと。
お許しくださいカルスさま。こんな不器用な手段しか取れない私を――――
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