第6話 呪いの根源

「どうなってんのこれ……!?」


 ページの途中から、文字が全て黒く塗りつぶされてしまっていた。

 これじゃあ読めないじゃないか!


「何か、何か手がかりは……」


 ページをめくるけど、そこから後ろは全て塗りつぶされていた。赤黒いインクのようなもので何重にも、何重にも。絶対にこの下に書かれたことを読ませないという強い意志を感じる。

 いったい誰がこんなことを……!


「シシィさん、これって」

「……私も分かりません。この本は大書庫の隅っこの方に隠されるようにして保管されてました。長い間開けたれた形跡はなかったので、書庫に保管された段階で既にこうなってたんだと思います」

「そっか……」


 この本の作者はきっと忌み子の真実に辿り着いてしまったんだ。

 そしてそれを知られては困る人の手によって、それを記した本は消されてしまった。この本は運よく黒塗りだけで済んだんだと思う。

 そしてこっそりと隠されて、今僕の手にある。


「本の作者は、『ルドア・バスコヴィル』さんか。覚えておいた方が良さそうだね」


 相当古い本だからもう生きてはないと思うけど、どんな情報が役に立つかは分からない。ちなみにこの本がいつ書かれたかは塗りつぶされてて分からなかった。


「シシィ、この本ってもう全部読んだ?」

「え、あ、はい。カルスさまの読んでるのを今隣で読んでたので内容は全て覚えました」

「相変わらず凄い記憶能力だね……」


 シシィは一度読んだ本の内容は忘れないらしい。試しに読んでる本から何回か問題を出してみたりしたけど、全部即答されてしまった。


「この本、僕が預かってもいいかな? あまりこの本を持ち歩くのは危険だと思うんだ。誰にも見つからないよう屋敷の地下に隠しとくから」


 どこからどうこの本の情報が漏れるか分からない。

 忌み子のことを知られたくない何者かに、この本が奪われるのはまだいい。でもそれを読んだ人まで狙われたら非常にまずい。

 僕が狙われるならまだいい。だけどシシィが狙われたら……そんなのあってはいけない。


「……分かりました。内容なら全て頭に入っておりますのでそれの処分はお任せします」

「ありがとうシシィ。これは僕が預かっておくね」


 僕は呪いの本を預かった。

 誰の目にも触れないよう気をつけないと。


「大丈夫だとは思うけど、この本の事は話さないように気をつけてね」

「は、はい。気をつけます」


 シシィは頭がいいから大丈夫だと思うけど、念のため注意しておく。


 さて。本を読んだのはいいけど……呪いの治療に役立ちそうなことは書いてあったかな?


「光魔法が効果的とは書いてあったけど、他に特に呪いの解き方は載ってなかったね。シシィは何か気になったことはある?」

「えっと、私が気になったのは『血』でしょうか」

「血?」


 確かに本の中には王家の血を引く者が忌み子になることが多いと書いてあった。

 僕も王家の血を引いてるし、その仮説はあっているのかもしれない。でもそれがどうしたんだろう?


「カルスさまに呪いをかけた人が誰かは分かりませんが、呪いをかけるには目標をしっかりと定めなくちゃ駄目なはずです。もしその狙いの定め方が『血』を基準にしているのであれば、呪いがかかる場所は『血』になるはずです」

「でも僕の呪いがかかってる場所は左胸だよ? 血とは関係な……あ」


 頭の中でピースがハマる。

 この三日間、僕は医学書をたくさん読んで、付け焼き刃ながら人体に詳しくなった。

 だから知ってる。呪いがあるこの左胸のには『心臓』があることを。そして心臓は血液を送り出すという役割があることも。


「じゃあ僕の呪いは胸じゃなくて血液にかかってたってこと!? それじゃあ……」

「はい。左胸の表面だけに『光の治癒ラ・ヒール』をかけるのはあまり効果がないのかもしれません」

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