第5話 黒い本
シシィが来てから三日が経った。
シシィの授業はめちゃくちゃスパルタで、僕は難しい医学書をバンバン読まされ、頭に叩き込まれた。
学ぶ分野はかなり幅広くて人体学、薬草学、毒学、回復魔法学など多岐に渡った。
どれも興味深くて覚えること自体は楽しいけど、いかんせん覚える時間が短すぎる。厳しくして欲しいとは思ったけど、ここまでして欲しいとは言ってない!
「えーと、ここまでで分からないことはありますか?」
「だ、大丈夫だと思う。たぶん」
「そうですか、では……また最初からやりましょうか」
「ひいっ」
毎日頭が痛くなるほど知識を詰め込まされる。
それでも確実に僕の頭の中には医学の知識が備わりつつあった。
確かにシシィの教え方は厳しい。普通の人だったら投げ出してしまうと思う。
だけどそれに耐え切った時に得られる知識量には目を見張るものがあった。師匠が『天才』と言うだけあって彼女の知識と魔法の理解度は凄い高かったんだ。
そして彼女から教わった『知識』は確実に僕の力になりつつあった。
「
手から放たれた光がゆっくりと集まり……霧散する。
うん、本当に少しずつだけど確かに成長してる。前だったらこんなに集まる前に消えちゃってた。
「凄いです。まだ教えて間もないのにこんなに上達するなんて……!」
「シシィのおかげだよ。本当にありがとう」
そう言ってシシィの手を握ると、彼女は「ひゃおう!?」と大きな声を出して椅子から転げ落ちる。白い頬は真っ赤になっちゃってる。
三日間でだいぶ仲良くなれたとは思ったけど、まだスキンシップは出来ないみたいだ。筋金入りの恥ずかしがり屋だ。
「す、すみませんカルスさま……私、今まで友達がいなくて。こういうの慣れてないんです……」
「いや、僕が悪かったよ。ごめんね」
それでも少しは僕に慣れてきたのか、ゆっくりだけど近くに戻ってきてくれる。慌てず、ゆっくりと仲良くなろう。
「……えっとそれじゃあ授業を再開しましょうか。次はこれにしましょう」
そう言ってシシィが取り出したのは真っ黒な表紙の本だった。
本の名前は……『呪術大全』。開かなくても分かる、呪いに関する本だ。
「ゴーリィさまに頼まれて、呪いの本もお持ちしました。呪いに関する本は少なくて見つけるのに苦労しましたが、なんとかこの一冊だけは見つけることが出来ました」
「……ありがとう。ぜひ読ませて貰うよ」
思えば僕は呪いのことについて、ほとんど知らない。
師匠とセレナに聞いたこともあるけど、二人ともほとんど呪いの知識はなかった。
それほどまでに呪いは滅多に触れることなのない、珍しいものなんだ。
だから呪いに関する本もとても希少で珍しい。国王である父上がいくら探しても全然見つからなかったんだから相当だろう。
にしてもそれを見つけることの出来たシシィはいったい何者なんだろう? 気になるけど今はこれを読むのが先だ。
「ええとなになに……『呪いには、かならずかける「術者」が存在し、その者の「想い」の強さによって呪いの強さは決まる』……か」
つまり呪いは自然発生はしないってことだ。
必ずかける理由が存在する。僕の呪いもかけた理由があるんだ。
でもそれって……なんだ?
生まれたその時から僕の胸には呪いがあった。誰の恨みも買っているはずがない。
それなのになんで、どんな理由で誰が? 謎は深まるばかりだ。
僕は夢中になってその本を読み進める
「『呪いには主に「闇」の魔法が用いられる。それを解くのに最も効果的なのは闇に反する属性である「光」の魔法だ』……か。まあこれは知ってることだね」
水魔法や木魔法にも回復魔法はあるけど、それらは僕の呪いにはほとんど効果がなかった。
光魔法が効果抜群なのは体感済みだ。
それからしばらくは気になるような事は書かれてなかったけど、とあるページで僕の指は止まる。
「これは……!」
ごくり、と喉が鳴り、ページをめくる指に脂汗が浮かぶ。
そこに書かれたのは『忌み子について』。
忌み子とは呪われて生まれた子ども……つまり僕のことだ。
忌み子は凶兆とされ、生まれた時から隠される。そして人知れず処理されることがほとんどらしい。
だからその記録も残らない。当然だ、生まれたことを隠したいのだから証拠なんか残したくないよね。
だけど今、僕の前にそれをまとめた情報がある。
「……大丈夫、ですか?」
シシィは心配そうに僕の顔を見る。
気づいてなかったけどひどい顔をしてたみたいだ。
「ごめん、大丈夫」
ゆっくり深呼吸して……気持ちを入れ替える。
そして意を決してそのページに目を通し始めるのだった。
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