第4話 新たな師

「カルス、改めて紹介しよう。この子がシシィ、お主の新しい先生だ」

「よ、よろしくお願いしまひゅ!」


 噛みながらも目の前の女の子は挨拶してくれる。

 まさかこんな小さな子が師匠も認める回復魔法使いなんて驚きだ。


「よろしくお願いしますシシィさん」

「ひゃい! 頑張ります!」


 ……ものすごい申し訳ないけど不安になってきた。大丈夫なのかな?

 そう思ってると、師匠が僕のその考えを見透かしたように話す。


「ほほ、安心せい。確かにシシィはまだ幼い。じゃがその才能は本物。いずれ儂を超える魔法使いになると儂は確信しておる」

「そ、そんな! 私なんてほんとに大したことないですっ!」


 ……なんか他人を褒める師匠を見てると少しモヤモヤする。どうやら僕は一丁前に嫉妬してるみたいだ。


「師匠はシシィさんとどんな関係なのですか?」

「この子の親に頼まれて、三日ほど魔法を教えたことがある。とはいっても儂が出会った頃には既に独学で初歩の光魔法を使えるようになっておったがな」

「それは確かに凄いですね……!」


 シシィさんは「そんな……私なんて大したことないですよ……」と謙遜してるけど、師匠が言ってるんだ、その才能はきっと本物なんだろうね。


「それではシシィ、カルスを頼む。儂はちと出かけるからの」

「へ!? わ、私ひとりで教えるのですか……?」

「ああ、回復魔法で儂が教えられることは全て教えた。儂は儂で呪いを解く方法を探る。ここはよろしく頼むぞ」

「ええ!? でも……って、ああ……行ってしまわれました……」


 手早く身支度を整えた師匠は出ていってしまう。

 空に伸ばされたシシィの手から悲しみを感じる。


 この子は人見知りみたいだからゆっくり仲良くならないといけなそうだ。クリスとは真反対だから気をつけないと。


「それじゃあよろしくお願いしますシシィさん。僕頑張りますので厳しく指導して頂いて大丈夫ですから」

「は、はい……」


 彼女はもじもじしながら持ってきた荷物を漁り、回復魔法の訓練の準備をする。

 うーん……彼女には悪いけど正直不安だ。変に遠慮して全然進まない、みたいなのは困る。ガンガン厳しくやってもらえると助かるんだけど。


「……よいしょ、っと」


 シシィさんはそう可愛い声を出しながら、机の上にめちゃくちゃ分厚い本を置く。

 ……なんか嫌な予感がしてきたぞ?


「えっと、それってなんの本?」

「あ、はい。これは『医学書』になります。回復魔法は人間の体への理解が深いと効果が高いんです。だからまずはお勉強をしようと思います」


 そう言いながら二冊、三冊とシシィさんは机の本を積んでいく。

 医学書……ってお医者さんが読む難しい本だよね? それをこんなに? え? ほんと?


「今日中に最低三冊程度は頭に入れて頂こうと思ってます。わ、私もお手伝いしますので頑張りましょう」


 ふんす、と意気込むシシィさん。

 そんな彼女に「いや、それは多いですよ!」と言うことは出来ない。


「はは……頑張ります」


 この日の夜、僕は初めて巨大な本に押しつぶされる夢を見たのだった。

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