第16話 宴
「えー、それでは! 新たな友人サフィ殿と勇猛なカルス、そしてレディツヴァイセン家の繁栄を願い……かんぱーい!」
ダミアン兄さんがそう言うと、その場にいた全員が「乾杯!」と叫びグラスを鳴らしあう。
時刻は夜、場所は屋敷の庭。
会場の中央には大きなキャンプファイヤーがあり、辺りを赤く照らしている。
「ありがとうねシズク、無理言っちゃって」
「お安い御用ですよこれくらい。使用人たちも羽を伸ばせて楽しそうです」
今夜は無礼講ということで、屋敷の使用人さんたちも食事の用意を終えて宴に参加している。
本来なら王子である僕や兄さんに誰かしら付いてなきゃ駄目だけど、今日は飛竜も参加者のお祭りだ。それくらいしたって怒られないでしょ。
「よーし、それではサフィ! 俺と飲み比べだ!」
酒豪の兄さんがさっそくサフィに勝負を挑んでる。
最初は飛竜に戸惑ってたけど、すっかり慣れちゃってる。こういう人柄が戦士たちに好かれるんだろうなあ。
「ぐえーもう飲めん」
あ、負けてる。
こういう所が女性ウケしないんだろうなあ。
流石に吐いてる王子を放っておけないのか何人か使用人が介抱している。全く兄さんは人騒がせなんだから。
少し呆れながらも僕は飲み比べで勝利したサフィのもとに向かう。
「サフィ、人たくさんいるけど大丈夫?」
『ルル!』
サフィは元気よく返事をする。近くにいる三体の子竜たちも元気そうに用意したお肉にかぶりついてる。凄い食欲だ。
「ほほ。宴など久しぶりだ。歳を取っても楽しいものじゃな」
グラスを揺らしながら師匠が近づいてくる。
その頬はほんのり赤い。いつもは嗜む程度で済ませる師匠だけど、今日は結構飲んでるみたいだ。
「珍しいですね、そんなに飲むなんて」
「ほほ、儂も宴くらいはハメを外す。そうじゃないと開いてくれた者に失礼じゃからの。それよりカルス。
そう言って師匠は葡萄酒の入った瓶を僕に渡す。見た目からして高そうなやつだ。
「ありがとうございます。何かいいのないかなって探してたんですよ」
瓶の中身に魔力をたっぷりと込めて、グラスに注ぐ。
そして師匠から貰った『宿り石』をグラスの前に置く。するとそこに相棒がやってくる。
「あら、どうしたのカルス? 何か用?」
「今日はありがとうねセレナ。クリスを探すのも、サフィと戦うのもセレナがいなくちゃ出来なかったよ」
「対価を貰ってるんだから当然のことよ。気にすることないわ」
確かにそうなのかもしれない。
でも手伝って当然、そんな関係は寂しいと思う。僕は本当の意味でセレナと仲良くなりたい。
「それでも助かったのは本当だからこのお酒をもらってくれるかな?」
「……ふーん、やっぱりキミって変わってるね。無償で貰うのは本当はよくないことなんだけど、特別に貰ってあげる♪」
セレナはグラスの中から紫色のオーラを取り出すと、口の中に入れる。
「んー! おいし♪」
良かった。気に入ってもらえたみたいだ。
じゃあ次は誰のところに行こうかな……と思っていると、クリスが僕のところに近づいてきた。
それもなんだか真剣な顔で。どうしたんだろ。
「や、やあクリス。楽しんでる?」
「ええ、みんないい人だし落ち着くわ」
「それは良かった。あ、なんか飲む? 僕入れるよ」
手に何も持ってないクリスのために、テーブルの空のグラスに手を伸ばす。
だけどその手はグラスに届く前にクリスに止められてしまう。
「ねえ、ちょっと私と一緒に来てくれる……?」
上目遣いでそう頼まれた僕は、コクコクと首を縦に振るのだった。
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