第13話 勝つだけじゃなくて
「勝っ……た」
倒れる飛竜を見て力の抜けた僕は、その場に倒れる。
でも完全に倒れ切る直前に師匠が来て体を受け止めてくれた。
「ほ、っと。よくやったなカルス、立派じゃったぞ」
「へへ……」
師匠に肩を貸してもらいながら立つ。
そして深呼吸して……足に力を入れる。うん、立てそうだ。魔力もまだ残ってるしこれなら歩いて帰れそうだ。
「セレナ、ありがとうね。助かったよ」
「私は当然のことをしたまでよ。それより見て、まだ向こうはやる気みたいよ」
「へ……?」
見ると飛竜は地面に倒れながらもこっちを睨みつけていた。
このままでも戦えるぞ、と言っているみたいだ。
「どうするカルス、儂がトドメを刺すか?」
「いえ。ちょっと気になることがあるんです。近づいてもらってもいいですか?」
「ふむ、中々難しいことを頼みよる。……しかし可愛い弟子の頼みじゃ、仕方ないのう」
師匠に肩を貸して貰いながら飛竜の側による。その間もずっと飛竜は僕を睨みつけて唸っていたけど、襲い掛かってはこない。どうやら本当に力は残ってないみたいだ。
飛竜まであと一メートルといった所で立ち止まった僕は、飛竜をまじまじと観察する。
すると師匠が尋ねてくる。
「カルスよ、一体何が気になっとるんじゃ?」
「この飛竜と戦ってる時感じたんです。だんだん力が弱くなってるなって。そんなに傷ついてるようにも見えないのに」
「ふむ。確かに
そう言って師匠も飛竜を観察する。
すると師匠は突然「む」と声を出す。何か見つけたみたいだ。
「あそこ、右の翼の根元に何か刺さっとるな。ボケててよく見えんが」
「右の翼っていうとあそこら辺か。えーと……」
年でよく見えない師匠に変わってそっちを見てみると、なんと太い矢が飛竜の体に刺さっていた。
かなり深くまで刺さってて戦ってる時は分からなかった。
「師匠、矢が刺さってます」
「どれどれ……ふむ。そのようなじゃな」
眼鏡をかけた師匠もそれを見つける。
「あれが痛くて弱ってたんですかね?」
「確かにあれは相当に痛いじゃろうが、この飛竜の弱り方を見るに『毒』の可能性が高いとみた」
「毒……ってことは、まさかこの飛竜は狩りにあったってことですか?」
「刺さっている矢の太さから察するに、そう考えるのが妥当じゃろうな」
飛竜の鱗や牙は高く売れる。
だから狩りの対象となることも多いんだけど、飛竜を狩るのには制限がかかっている。
理由は簡単、飛竜は頭が良く、仲間が『仕返し』に来ることが多いからだ。
なので特に人の住んでいる地域では強く禁止されているはずだ。街に飛竜が来たら凄い被害になるからね。
この屋敷周辺も禁止されてるはずだけど、誰かが破ったんだ。しかも最悪なことに手負いのまま逃がしてしまった。
「師匠、実は……」
「言わんでもわかる。この飛竜を治療したいんじゃろ?」
「……へ? なんで分かるんですか?」
絶対に反対されると思ったら先回りされてしまった。
相手の思考を読む魔法でもあるの?
「そんな驚かんでもそれくらい分かるわい。責任を感じ取るんじゃろ? この飛竜に」
「あはは……バレちゃいましたか」
「責任を取るべきは禁を破ったハンターじゃ。お主が責任を取る必要はないが、言っても聞かんじゃろうて。好きにやるがよい」
「ありがとうございます」
師匠にお礼を言って飛竜に近づこうとした瞬間、僕の腕がガシッとつかまれる。
見ればクリスが心配そうな目をしながら僕の腕をつかんでいた。すり傷はなくなって足の震えも止まってる。師匠が治療してくれたみたいだ。
「駄目よカルス、死んじゃうわ。私、謝るから。みんなにごめんなさいってするから……これ以上傷つかないで」
瞳に涙を浮かべながら、震える声でクリスは言う。
強気でわがままな子だけど、本当はやっぱり優しい子だったんだ。そんな彼女をこれ以上泣かせたくはないけど、飛竜を見捨てるわけにはいかない理由が僕にはあった。
「ねえクリス。あの青い飛竜『サイア種』はおとなしい種なんだ。でもあの飛竜は襲ってきた。なんでだと思う?」
「へ? それは撃たれたからじゃないの?」
「もちろんそれもあると思う。でも動けない状況まで弱っても威嚇するのは変だと思うんだ」
飛竜は逃げる素振りすら見せず、ずっと僕たちを威嚇している。恨みがあるからというだけじゃ説明できない強い『思い』をそこには感じる。
まるで自分の身を犠牲にしてでも戦わなくちゃいけない理由があるような振る舞い。
本で飛竜を調べたことがある僕は、その理由に心当たりがあった。
「サイア種はこの時期、子育てをする……つまりこの飛竜は、子どもを守ってるんだと思う」
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