第12話 竜の吐息
宙に浮かぶ三十個の光の玉。
それは高い魔法技術の証明であり、魔法使いから見れば恐ろしく見えるが飛竜からしたらたいした脅威には見えない。
確かに少しは驚いたが、飛竜はすぐに気を取り直し再び駆け出す。次こそは本気で倒す、そんな気概を感じさせながら。
「いくよセレナ、合わせてね」
「とーぜん!」
カルスは魔法に集中する。
頭の中に精密なイメージを抱き、それを確実に実行する。
「
カルスの指示に従い、光の玉が二個動く。
そして駆ける飛竜の目前で止まり、次の指示を待つ。
「
カルスが叫んだ瞬間、二つの光の玉は勢いよく
目の前で強い光を浴びた飛竜は怯み、苦しそうに『グッ!?』と呻く。
その隙を突き、カルスは複数の光の玉を操作する。
「
凝縮された光の玉が飛竜の足に何発も命中する。
宙に浮いているだけの光の玉には攻撃性能はないが、『
しかし飛竜の鱗は堅牢。飛竜は再びカルスのもとに駆けようとするしかし。
『
飛竜の足元に移動した光の玉が
勢いよく駆けていた飛竜はそれにつまづき前のめりに倒れそうになる。それを見たカルスはすかさず命令を飛ばす。
「
光の魔力を帯びた玉が、何発も飛竜の顔面に激突する。
美しさすら感じる、洗練された魔法の数々を見たクリスは思わず声を漏らす。
「すごい……」
とても剣を振るのに難儀していた少年がやっているとは思えなかった。
彼を自分より弱いと思っていたことを、彼女は恥じた。
そしてその強さをひけらかさないどころか、自分の弱さを認め剣を教えてくれと頭を下げた彼の強さに尊敬の念を覚えた。
『グ、ルルル……!』
何発も魔法を貰った飛竜はたまらずその場に膝をついてしまう。
苦しそうに顔を歪めているが、その顔から闘志はまだ消えていない。
それを見たカルスは疑問を抱いた。
「あの飛竜、なんでまだ挑んで来るんだろう……?」
赤い飛竜『メギド種』は好戦的なことで知られるが、青い飛竜『サイア種』は比較的穏やかな種だとカルスは知っていた。
人里を襲うことはほとんどなく、人と出会っても自分から去っていくと言われていると彼は本で読んだことがあった。
しかし目の前の飛竜は逃げるどころか果敢に挑んでくる。それが気になったのだ。
「もしかして……」
『ゴギャアアアアッッッ!!』
しかし飛竜は考える隙すら与えず、咆哮する。
そして息をたっぷりと吸い込むと、喉をぷくーっと大きく膨らませる。それは飛竜最大の武器を行使する合図。それに気づいたゴーリィは叫ぶ。
「カルス!」
「大丈夫です、分かってます!」
残りの光の玉を消し、カルスは備える。もし飛竜が
避ければ後ろにいる二人に被害が出てしまう。師匠がいるから安全だとは思うけど、それでも避けるのは選択肢になかった。
「ごめんねセレナ。もう少し力を貸して」
「本当にキミは無茶な子ね。でもそれでこそ私の契約者ね」
セレナは楽しげに笑い、少年に力を貸す。
暇を持て余し続けた彼女はついに会うことが出来たのだ、己の退屈を吹き飛ばしてくれるそんな人を。
『ゴアアアアアアアッ!!』
飛竜が咆哮と共に口から巨大な炎の塊を発射する。
それは飛竜最大の武器『
遠くにいても熱を感じるその炎を、カルスは真っ正面に見据える。
「
光り輝く大きな盾が現れ、
その衝撃は凄まじく、盾にヒビが入ってしまうが、それはすぐに修復されていく。
光魔法には『元に戻す力』がある。ならばその防御能力は他の魔法よりもずっと高い。カルスはその事を理解していた。
だからこそ彼は攻撃魔法よりも先にこの魔法を覚えたのだろう。
「絶対に守り切って見せる!」
今まで守られてきたからこそ、彼は他人を守りたいと言う気持ちが強い。
そしてその気持ちは彼の精霊へと伝わり、魔法に反映される。例え
「ぜえ……ぜえ……」
大量の魔力を使い、肩で息をするカルス。
目前に広がる焼け溶けた大地が
しかしそれは光の盾より先に進むことは出来なかった。
『グ……ウ……』
全ての力を使い切った竜はその場に倒れる。
カルスは、初めて自分の力で勝つことが出来たのだ。
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