第11話 初めての戦い
「師匠、クリスをお願いします」
「うむ、任された」
カルスは疲れ切った様子のクリスを師匠であるゴーリィに預けると、一人飛竜の前に立ちはだかる。
突然現れた謎の人に少し驚いた様子の飛竜だったが、すぐに身を低くし臨戦体勢に入る。
『グルル……』
低く、恐ろしい唸り声。
しかしカルスは一歩も引かずそれと向かい合っていた。
当然それを見たクリスは黙っていない。
「無茶よカルス! お願いだから逃げて!」
暴れる彼女をゴーリィは止める。放っておいたら飛竜のもとに行ってしまいそうだ。
「これ、暴れるでない。傷の治療をするから落ち着くのじゃ」
「なんでカルスを一人で行かせるの!? 師匠なら早く助けてあげてよ!」
クリスのもっともらしい言葉に、ゴーリィは首を横に振って答える。
「障害全てを取り除くことが育てではない、時に突き放し試練を与えるも師の役目よ。それに見ておれ、カルスは
カルスが自分の殻を破ろうとしていることにゴーリィは気づいていた。だからこそ不安でも見守る道を選んだのだ。彼の行く道は茨の道であることを知っているから、自分の出歩く力を身に着けさせなければいけない。
とはいえ窮地に陥ったら助ける準備はしていた。
「頑張れよ、カルス……」
ゴーリィの視線の先で、カルスはゆっくりと呼吸を整えていた。
初めて見る飛竜。怖い気持ちはもちろんある。
でもそれと同じくらいワクワクもしていた。今の自分がどれほど成長したのか、それを知れる絶好の機会だったから。
『グルッ……!』
先に動いたのは飛竜。太い足で地面を蹴り、一直線にカルスのもとに駆ける。
そして大きく口を開け、ひと飲みせんと襲いかかる。
それを見たカルスは、すぐそばにいる相棒に話しかける。
「いくよセレナ、よろしくね」
「ふふん、私に任せなさい!」
呼吸を合わせ、魔法を発動する。
イメージするのは力強い肉体。何ものにも負けぬ、強靭な身体。それを共有した二人は、光の魔法によってイメージを現実に
「「
金色の光がカルスの身体を包み込む。それは光の祝福であり、身体能力を底上げし、闇に対抗する力も得ることが出来る。
身体能力はまだまだ低いカルスだが、この魔法がかかれば一時的に普通の大人よりも高い身体能力を得ることが出来る。
「――――ふっ!」
その力でカルスは横に素早く跳び、飛竜の噛みつきを躱す。そしてそのまま飛竜の顎に狙いをつけ……
「せいっ!」
思い切り殴り飛ばした。
油断していた飛竜はその一撃で体勢を崩し、地面に倒れてしまう。
一方カルスはと言うと、痛そうに拳をなでていた。
「いちち……さすがに素手は痛いや」
「このおバカ! 飛竜を素手で殴る人がいる!?」
「はは、つい」
そうセレナと話していると飛竜が立ち上がる。今の一撃で脳が揺れたのか、少しふらついてはいるがまだ元気そうだ。
「向こうはまだまだやる気みたいね。カルス、まだまだ行けるでしょ?」
「当然だよ。魔力だけはたくさんあるからね」
カルスはそう言って再び魔力を込める。
魔法を覚えたての彼はまだたくさんの魔法は使えない。基礎と応用魔法がいくつか、まだまだ本職の魔法使いには遠く及ばない。
しかし師匠は言った。「魔法とは数ではない。基礎さえしっかりとしてればどんな状況にも対応出来る」と。
ゆえにカルスは焦らない。死ぬ気で覚えた『光魔法』は自分を守ってくれると信じているから。
「
一つ、また一つと光の玉が出現する。
宙に浮いたそれらの玉は瞬く間に増えていき……最終的にカルスの周辺を埋め尽くしてしまう。
数にして三十。今カルスがコントロール出来る最大数だ。
魔法も少し齧っているクリスは、それを見て絶句する。
「うそ……なんでこんな数の魔法を操れるの……!?」
魔法を複数操るのは難しい作業だ。二つ同時に操るだけでも、左手でパズルを解きながら右手で文字を書くくらい難しい。
それなのにカルスは同時に三十個を操作することが出来た。これは一流の魔法使いであってもそう簡単に出来るものではない。
ゴーリィはそれを行う弟子を誇らしげに眺めながら言う。
「ほほ。あまりこの言葉は好きではないがあえて使おう。あやつは『天才』じゃよ」
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